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ジダンはファンタジーを捨てた。欧州3連覇と名将になれた理由 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

◆度肝を抜いた超絶ボレー。クライフ、ジダン、李忠成らが決めた歴史的瞬間>>

「今でも誰よりもボールを扱うのはうまい!」

 上ずった声で言う選手たちの称賛を、ジダンは静かに浴びた。当然、そのひと言は重みが違った。

 戦術的に、新しい試みはしていない。しかし誰よりも、選手の能力や特色を正しく見極め、適材適所で使うことができた。そして、信頼関係は絶大だった。例えばスプリンターとしては衰えつつあるクリスティアーノ・ロナウドには、ゴールに専念することを納得させて、その勝負強さを最大限に引き出したのである。

「私は18年間、プロ選手として過ごし、ロッカールームがどのように機能しているのか、を心得ている」

 ジダンは監督の信条を語っている。

「現役生活は、私のアドバンテージになっているだろう。選手というのは、"自分がこのチームで必要とされている"と感じると、それに感謝し、誇りを持てる。プレーが改善するのは言うまでもない。だから、私はリスペクトのある関係を求めているんだ」

 ジダン監督の采配はシンプルだが、指導者の世界では物事を簡潔にすることこそ、何より難しい。様々な圧力があるからだ。

「我々にはすでに最高のGKがいる」

 2017-18シーズン、フロレンティーノ・ペレス会長が新たにGKを獲得しようとした時、ジダンはそう言い放って拒否したことがあった。驚くべき胆力である。これを意気に感じたケイロル・ナバス(現パリ・サンジェルマン)がビッグセーブを連発。何より、所属する全員の選手に「ジダンは盾になってくれる。信用できるリーダー」と印象づけ、決勝では一丸となって最強を誇ったリバプールを撃破した。

 いったん退いたジダン監督は2018-19シーズン途中に復帰する。そのレアル・マドリードは極めて実務的だ。リスクヘッジし、相手の弱点を突く。徹底的な勝利至上主義で、そこに自由奔放なファンタジー性はない。言い換えれば、ジダンはファンタジーを捨てることによって、監督として高みに達したのだ。

 そのルーツは、生来の勝利者として過ごした現役時代にある。

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