「ぬりかべ」が襲ってくる。ブラジルサッカー史上最高級ボランチの特殊能力

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

異能がサッカーを面白くする(8)~ボランチの奪う力とさばく力編

 守備的MFをボランチと呼ぶ頻度が高くなったのはいつ頃からだろうか。

「ボランチ」はブラジル発のポルトガル語のサッカー言葉だ。新しいサッカー用語は、主に外国発の報道や指導者の国際交流を通して日本に入って来ることが多いが、たいていは一過性というか、そのまま日本に浸透するケースはそう多くない。「ファンタジスタ」「デュエル」「アタッキングサード」などは、もはや流行が去っているようにも見える。

 それだけに「ボランチ」の廃れなさは際立つ。ボランチに近い意味を持つポジション用語には、守備的MF以外にもセンターハーフ、セントラルMF、アンカー、レジスタ、ピボーテなど多々存在する。特に英国、イタリア、スペインのサッカー好きには、「ボランチ」は違和感を抱きたくなる言葉になる。筆者も、そのあたりの微妙な差に気を配りながら毎度原稿を書いているつもりだが、一方で「ボランチ」には他の追随を許さない言葉の力があることも事実だ。

 1995年から4シーズン、Jリーグのジュビロ磐田でプレーしたドゥンガの影響が強いものと思われる。1994年アメリカ大会でブラジルが優勝したときに、優勝トロフィーを掲げた元ブラジル代表のキャプテンが、その半年後、Jリーグにやってきた。その時、世界で最も有名な選手が磐田で、操縦桿を握る舵取り役(「ボランチ」のもともとの意味)を担っていた。現在のアンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)とはひと味もふた味も異なる高級感を発揮。ドゥンガはボランチ像を日本に強く印象づけた選手として記憶される。

1994年アメリカ、1998年フランスと、W杯2大会でブラジル代表の主将を務めたドゥンガ1994年アメリカ、1998年フランスと、W杯2大会でブラジル代表の主将を務めたドゥンガ 筆者がドゥンガのプレーを最初に見たのは1989年のコパ・アメリカ(ブラジル大会)になるが、その2年後のコパ・アメリカ(1991年チリ大会)では、ブラジル代表のボランチとして、ドゥンガ以上に衝撃的な選手として目に飛び込んできた選手がいた。

 マウロ・シウバ。具体的に何が衝撃的だったかと言えば、ボールを相手から取り返す能力だ。ドゥンガもスマートとは言えない体つきだったが、マウロ・シウバはそれ以上で、筋肉質のいかついがっちり体型を密着させることで、相手からエネルギーを奪い取る、特殊な能力の持ち主に見えた。

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