オシム監督の「考えて走る」の正体。格上をやっつける胸熱サッカー

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

サッカー名将列伝
第26回 イビチャ・オシム

革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせてきた、サッカー界の名将の仕事を紹介する。今回はジェフユナイテッド市原や日本代表を率いたイビチャ・オシム監督。考えて走るサッカーが見る者を熱くさせた。今回は改めてそのサッカーの戦術的特徴を振り返る。

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<格上を圧倒して倒す>

 初めてその姿を見たのは、パルチザン・ベオグラード(当時ユーゴスラビア、現セルビア)を率いて来日した1991年の時だった。190㎝の巨体がミニゲームでレフェリーをやっていた。のしのしと黙って歩いていたが、ある瞬間に「そこ」という感じで指さすと、まさにそのスペースへパスが通ってゴールに結びついた。

日本代表を率いていたころのオシム監督日本代表を率いていたころのオシム監督 2回目は、たぶん2002年ワールドカップだ。ジョゼフ・ベングロシュ(スロバキア)とコンビでFIFAの技術レポートを作成していたようだ。ベングロシュは元チェコスロバキア代表監督で、02年はジェフユナイテッド市原(現ジェフユナイテッド市原・千葉)の監督だった。

 3回目は03年、ジェフ市原の監督に就任してから。その後のイビチャ・オシム監督についてはすでに多くのことが語られつくしている。

 オシム監督は中位くらいのチームをトップクラスに引き上げる手腕に定評があった。最初に指揮を執ったジェリェズニチャル(ボスニア・ヘルツェゴビナ)やシュトルム・グラーツ(オーストリア)がそうで、ジェフもそうだった。ユーゴスラビア代表にも当てはまるかもしれない。

「走るサッカー」が代名詞、FWやMFを育てるのが上手で、結果だけでなく内容にもこだわり見応えのあるチームをつくる。

 現在ならマルセロ・ビエルサ監督(リーズ)のようなタイプだろう。できあがった強いチームを予定どおり優勝させる「優勝請負人」ではなく、言ってみれば「幸福請負人」。ファンに感動を与え、誇りに思えるようなチームにするスペシャリストだ。

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