マラドーナの足をへし折った男の言い分。「何も悪いことはしていない」

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Press Association/AFLO

厳しいタックルを受け続けたディエゴ・マラドーナ。写真は1986年メキシコW杯決勝厳しいタックルを受け続けたディエゴ・マラドーナ。写真は1986年メキシコW杯決勝 1983年9月、カンプ・ノウ。当時、バルセロナに所属していたアルゼンチン人FWディエゴ・アルマンド・マラドーナは、アスレティック・ビルバオのスペイン人DFアンドニ・ゴイコエチェアのタックルを受け、ピッチに崩れ落ちた。転がって、うずくまって動けない。左足首は折られ、付近の靱帯などは無残に断ち切られていた。

「足をへし折れ!」

 比喩ではなく、本気でそういう指令が出されていたという。そして、実際にへし折るディフェンダーがいた。背後から猛然と助走をつけ、身長185センチの巨体で飛び込み、スパイクで足首を蹴りつけ、立っていられないほどに破壊したのである。

「私は勝利のために戦った選手の行為を誇らしく思う」

 試合後、ビルバオのハビエル・クレメンテ監督はそう言って胸を張った。詫びる気など毛頭ない。むしろその行為を正当化した。

 リオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドはトッププレーヤーと言える。しかし、現代にかつてのようなラフなタックルは少ない。危険なファウルには厳しい処分が科され、VARの導入もあって守られているのだ。

 60歳で亡くなったマラドーナは、荒野のような時代を生き抜いた英雄だった。

――あなたは本当にマラドーナの足をへし折るつもりでタックルしたんですか?

 筆者は、マラドーナの足首を破壊したゴイコエチェアに直接、質問をしたことがある。スペイン2部のヌマンシアでプレーしていた福田健二のルポで滞在中、当時、チームの監督を務めていたのがゴイコエチェアだったのだ。

「昔の話さ」

 ゴイコエチェアは鼻を鳴らして言った。

「ピッチは戦場なんだよ。男同士が限界までやり合う。それだけだ。ケガをさせるつもりなどなかった。自分はひとりの選手として、何も間違ったことはしていない」

 彼は悪びれずに言った。今なら大炎上する発言かもしれない。"事件"の当時も、ゴイコエチェアは「犯罪者」「人殺し」「ビルバオの肉切り包丁」と欧州中から吊し上げられた。しかし、本人は「犠牲者も戦犯もいない。サッカーは危険と隣り合わせの戦いだ」という主張を繰り返した。

1 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る