シメオネが選手に伝える現役時代の自らの資質「泥が見えたら飛び込む」 (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

ジダンにはレアル向きの資質がある。強い個性をどうまとめているか>>

 攻守両面に優れているだけでなく、フィールドの現実を把握して、自分とチームを機能させる方法を創造する戦術的マエストロだった。

 いくらボールをうまく扱い、圧倒的なパスワークを身に着けても、守備機会はゼロにはならない。ボールがあれば攻撃する、ボールがなければ守備をする。現実主義のシメオネは、守備をするのがまるで恥であるような言い方は決してしない。よい守備が必要だという現実を直視する。

 もちろん、自分たちにボールがある時のプレーも重要だ。それに取り組んできたのが、ここ数年ということなのだろう。

「規律とは、ピッチで生き残る方法の1つである」

 だが、シメオネはこうも言っている。

「順応主義は受け入れられない。消極性は自分から遠い考え方だ」
「泥が見えたら、私はすぐに飛び込む。サッカーの世界で生まれる挑戦が好きだ」

 守備の規律は強固にあるが、シメオネのアトレティコには"やらされている感"がない。「シメオネのためなら橋から飛び降りる」と言った選手もいたが、たんなる忠誠心ではないのだ。

 フィールドの現実を見据えて何をすべきかを創造する、自分で仕事をつくり出していくことを問われている。シメオネ監督は創造的仕事人だった選手時代の資質を、自分の選手たちに正しく伝えているのだ。

 カディス戦は最初の20分間で、カディスが自滅的に2失点したことで流れが決まっている。専守防衛で勝ってきた戦法は使えなくなり、カディスはバランスを失った。シメオネ監督はその現実を見ている。

「私たちのことは知っているでしょう。次の試合のためだけに生きていく」

 パルティード・ア・パルティード。試合は一過性であり、今日と明日が同じとは限らない。直面する現実のなかで生きていくだけ。

 身もふたもない現実主義者。だが、泥が見えたらすぐに飛び込む。

 サッカーの機微に敏感なシメオネのチームは、どこまでも即物的なのに、同時に哲学的でもある。

ディエゴ・シメオネ
Diego Simeone/1970年4月28日生まれ。アルゼンチン・ブエノスアイレス出身。87年にベレスでデビューし、以降セビージャ、アトレティコ・マドリード、インテル、ラツィオなど、スペインやイタリアで長くプレー。アルゼンチン代表では3度のW杯に出場して活躍している。引退後はアルゼンチンで各チームの監督を歴任したのち、11年よりアトレティコ・マドリードの監督に就任。レアル・マドリード、バルセロナのビッグクラブと張り合いながら、リーガ優勝1度、コパ優勝1度、ヨーロッパリーグ優勝2回、チャンピオンズリーグ準優勝2回の成績を残している。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る