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ハリルホジッチは日本の周回遅れを危惧。実は先見の明を持っていた (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 だから、会長から突然「解任」を告げられてショックを受けた。どういうことなのか理解ができず、「真実を知りたい」との理由で慰謝料1円を求めての訴訟になったわけだ。

 日本人はハリルホジッチのようにストレートな性格ではない。問題があると思ってもすぐに言わないし、不満や意見があってもある程度はため込む。物事を荒立てない習慣があるので、一般的に欧州人より沸点も高い。ハリルホジッチのような人が80度で沸騰するところも100度になっても沸騰しない。

 注意深く観察していれば、というより日本人なら、いくつかの兆候に気づいていたのではないかと思う。ハリルホジッチにしてみれば騙し討ちにあったような気持ちだったろうが、JFA側にはそのつもりはなかったと思う。少なくとも解任が決まるまではなるべく気持ちよく仕事をしてもらおうという気遣いが、不誠実や二枚舌につながるとは思っていなかったのではないか。

<先見の明と現実のギャップ>

 17年12月のE-1の韓国戦に惨敗した時に、解任論はすでにJFA内では出ていたようだ。ただ、決定的なのは翌18年3月の欧州遠征の2試合だろう。

 マリ、ウクライナとの試合内容は惨憺たるものだった。この2試合、ハリルホジッチは明確な戦術を打ち出している。縦にロングボールを蹴って敵陣からのハイプレスを行なう。簡単に言うとそういうスタイルである。

 予選段階からすでにそちらの方向へ舵を切っていたが、欧州遠征の2試合はより明確になり、その結果は「このままではW杯を戦えない」ことが誰の目にもはっきりとわかるものだった。これで選手たちの求心力は一気に低下したとみていい。

 ただ、ハリルホジッチは「このままで」W杯を迎えるつもりはなかったに違いない。本番直前の追い込みと対戦相手への対抗策は、この監督の十八番なのだ。14年のブラジルW杯ではその手腕を遺憾なく発揮してアルジェリアをベスト16に導き、この大会で優勝するドイツと延長戦にもつれる好試合を演じている。

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