2020.06.26

ピャニッチは「引き算の美学」で輝き。
ユベントスが中盤の底で起用するわけ

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

サッカースターの技術・戦術解剖
第14回 ミラレム・ピャニッチ

<縦に落ちるFK>

 落ちるフリーキック(FK)は、1950~60年代の名手ジジ(ブラジル)の”フォーリャ・セッカ”がオリジナルと言われている。壁を越えてストンと落ちる軌道から「枯れ葉」の名がついた。

中盤の底の位置でレジスタ(司令塔)としてプレーするピャニッチ。 ジジは「ボールの上を蹴って縦回転を与える」と説明している。ところが、ボールの中心から上を蹴って壁の上を越すのがまず難しい。昔の重いボールでこれが蹴れたジジは、ブラジルが初優勝した1958年ワールドカップのMVPである。

 ユベントスのミラレム・ピャニッチもFKの名手で、壁を越えて鋭く落とすシュートを得意としている。何と言っても確実に落としてくるのでGKには厄介だ。シュートを防ぐために壁があるのに、そこを越えてスピードのあるシュートが枠へ入ってくるなら、壁の意味はない。GKとすれば壁で塞いでいるほうも注意をしなければならない。ところがピャニッチは、横にカーブさせるFKもうまいので、GKはヤマを張れないのも厳しい。

 2013-14シーズンからの2年間、ピャニッチのFK成功率は18.4%で、ヨーロッパ最高だった。ローマでプレーしているころだ。ローマでは”イル・ピッコロ・プリンチペ”(小さな王子)と呼ばれていた。クラブのレジェンド、フラッチェスコ・トッティが王様なので、ピャニッチは王子。身長は180cmなので背が低いわけではなく、年齢が若かったのでピッコロだったようだ。ユベントスでは”イル・ピアニスタ”(ピアニスト)。技巧的で、ある意味古典的なMFである。

 ボスニア・ヘルツェゴビナで生まれたが、少年期にボスニア戦争が起こったためにルクセンブルクへ移住している。父親も下部リーグの選手だった。7歳からルクセンブルクの地元クラブでプレーを始めると、多くの有名クラブのスカウトから注目され、14歳の時にフランスのメスのユースチームに加入した。