SBがゲームを仕切る。戦術変化が生んだ「10番」ダニ・アウベス (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

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うまくなった、「走る」選手

「走る選手をうまくすることは無理だが、うまい選手を走らせることはできる。よくそう言われるが、そんなに簡単にはいかないものだ。走らない選手というのは、本当に走らないのだよ」

 イビチャ・オシム氏はかつてそう話していたことがある。ダニエウ・アウベスはオシムの話でいえば「無理」な例になる。走る選手のほうだった。

 2006-07シーズンのUEFAスーパーカップでバルセロナと対戦したセビージャは、ダニエウ・アウベスの走力で勝利している。「走らない選手」であるバルセロナのロナウジーニョの背後を突きまくった。2年後、バルセロナは破格の好待遇でダニエウ・アウベスを迎え入れた。

 無尽蔵のスタミナで上下動を繰り返す右SBは、主にシャビから何本ものパスを引き出していく。ただ、そのあとのクロスボールはどこへ飛んでいくかわからないところもあった。

 メッシ、シャビ、イニエスタ、ブスケツのカンテラ出身者らとは明らかに違うタイプで、ときに流麗なリズムを台無しにもしたが、走るダニエウ・アウベスは次第にバルセロナに不可欠な存在になっていった。ペップ・グアルディオラ監督の下、走るSBはみるみるうちに上達し、走る選手はうまい選手になっていた。

サイドバックが「王様」になった理由

 現代のサッカーでSBは「王様」になろうとしている。ダニエウ・アウベスは突然変異ではなく、近い将来の予告なのかもしれない。その条件はすでに整えられているので、あとは第二、第三のダニエウ・アウベスが現れるのを待っている状況ともいえる。

 SBはすでに攻撃の起点になっている。選手の資質とは無関係に、すでにそうなっているのだ。

 きっかけはビルドアップの進化だ。10年ほど前から、後方でのビルドアップに変化が起こっていた。それまでは、4バックならDF4人がラインを形成してボールを動かしながら縦への展開を探っていたのだが、やがてMFが2人のセンターバックの間やセンターバックとサイドバックの間に下りていくようになった。

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