2019.05.15

「バルサの化身」。現役を引退する
シャビが目指す監督像とは?

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Koji Watanabe/Getty Images

「僕らは勇敢でなければならない。たった一度のミスでボールを奪われ、失点する危険はある。ミスを誘った方が、勝負の効率がいいのもわかっている。それでも、怯んではならない。なぜなら、それがバルサの伝統だから」

 大きな目をクリクリとさせ、瞳を潤ませながら、シャビ・エルナンデスは熱っぽく語っていた。10年以上前のインタビュー。その声は朗らかで人懐こかったが、バルセロナの哲学を語るときの口調は確信に満ちたものだった。

 彼自身が”バルサの化身”であるかのような錯覚を受けた。

 そのシャビ(39歳)が先日、現役引退を表明した。カタールのアル・サッドでプレーして4年目。5月20日のアジアチャンピオンズリーグ、グループステージ最終節、ペルセポリスとのアウェー戦が最後の試合になると言われている。6月からはスペインに帰国し、マドリードで指導者講習を受け、ライセンスを取得して監督業をスタート。まず1年間は、カタールで指導者として活動する予定だという。

アル・サッド(カタール)に所属、現役引退を表明したシャビ・エルナンデス シャビとは何者で、どこへ向かうのだろうか?

 シャビはバルサにおいて、リーガ・エスパニョーラだけでも505試合に出場している。これはクラブ歴代第1位の記録である。さまざまなカップ戦も含めると、出場試合数は800近いだろう。

 リーガ優勝8回、チャンピオンズリーグ優勝4回、スペイン国王杯優勝3回、クラブワールドカップ優勝2回……。タイトルを書き連ねると淡々としたものになるが、この一部だけでも体験できる選手が何人いるだろうか。

 シャビはスペイン代表選手としても、新たな時代を切り拓いている。”無冠の無敵艦隊”と揶揄されていたスペインを、司令塔として2度の欧州制覇(2008、2012年)、そして2010年南アフリカワールドカップ王者に導いた。その功績は計り知れない。あのリオネル・メッシも成し遂げられていない世界王者になっているのだ。

 だが、シャビの偉大さは、やはり数字やタイトルでは語ることができない。

 プレーメイキングは天才的だった。ビルドアップで、自らの足下にパスを呼び込む。当然、敵が潰しにかかってくる。シャビはそれを予測し、相手の逆を取って、くるりと反転し、かわす。むしろ、相手を引きつけるように。そうすることで、味方の次のプレーを解き放つ。壮大なボールゲームを可能にしたのだ。