プレミアの古豪を復活させた「中国マネー」と大物代理人の蜜月

  • ジェームス・モンタギュー●取材・文 text by James Montague 井川洋一●訳 translation by Yoichi Igawa

フットボール・オーナーズファイル(9)

フォーサン・インターナショナル/ウルヴァーハンプトン・ワンダラーズ

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 ウルヴァーハンプトン・ワンダラーズは、今季の"プレミアリーグ昇格組"のひとつだ。昨季のチャンピオンシップ(2部相当)で2位に勝ち点9差をつけて優勝した彼らは、7シーズンぶりとなるプレミアリーグで7位(2月12日時点)につけるなど大健闘している。

7シーズンぶりのプレミアリーグで健闘するウルヴァーハンプトン photo by Getty Images7シーズンぶりのプレミアリーグで健闘するウルヴァーハンプトン photo by Getty Images ウルブス(ウルヴァーハンプトンの愛称)は長い歴史を誇るクラブだ。1877年に創設され、1888年にはフットボールリーグの創立メンバーのひとつとなり、1950年代には3度のリーグ優勝を経験。その後、長期の低迷を経てウルブスは生まれ変わった。その裏には現代のフットボールを動かすグローバリズムとビリオネアの存在がある。

 ウルブスの命運が好転したのは2016 年7月。上海を本拠とする中国の巨大企業、フォーサン・インターナショナル(復星国際)がクラブを買収したことが発端だった。保険から旅行、エンターテインメント、オイル、化粧品など、さまざまな事業を手がけるコングロマリット(複合企業)は、中国最大の民間企業のひとつ。一昨年には12億ポンド(約1707億円)相当の利益を計上し、総資産は約600億ポンド(約8兆5349億円)に上る。

 そんな複合企業にとって、ウルブス買収に投じた推定4500万ポンド(約64億円)は、取るに足らない金額なのかものかもしれない。しかしなぜ、それまでほとんどフットボールに興味を示してこなかった彼らが、当時イングランド2部リーグに所属していたクラブを買ったのか。当時の状況を探れば、その理由が見えてくる。

 2015年、中国の習近平国家主席はスポーツ、とくにフットボールにおける同国の存在を高め、「ゆくゆくは世界の強国になることを目指す」と発表。強力な中国政府の号令により、多くの中国企業がフットボールビジネスに乗り出し、競うように巨額の投資がなされていった。

 中国スーパーリーグ(CSL)にはワールドクラスの選手が次々に到来し、移籍金の最高額は何度も更新された。そして2016年12月、上海申花がボカ・ジュニオルスからカルロス・テベスを世界最高額のサラリーで迎えたとき、彼らの"散財"はピークを迎えた。

 この元アルゼンチン代表FWは、中国では輝きを放つことがないまま1年後にボカに復帰。中国での1年間を「休暇だった」と振り返っている。中国政府はそうした高額移籍に歯止めをかけるべく、外国人選手の獲得の際に移籍金と同額の"ぜいたく税"を課すことを決めた。

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