タイの大富豪が岡崎慎司も所属の
レスターを買収して手にした「保険」 (4ページ目)
タクシンがいまだに国外追放の身であるのに対し、かつての盟友ヴィチャイは、母国で天文学的な財産と大きな力を維持している。ラーマ9世の威光を手にし、タクシン派とアンチ・タクシン派の狭間をうまく渡り歩くことによって。
「ヴィチャイはスーパーリッチで、軍部とのつながりもある。イングランドでは彼の所有する比較的小さなクラブが下馬評を覆してリーグ優勝を遂げた。しかし、それをシンデレラ・ストーリーと呼ぶことはできない」とチャンバース博士は言う。
そして、現在UAEに居を構えているタクシンは、ヴィチャイがレスターを所有する意味をこう分析する。
「ヴィチャイは私の姿から学んだはずだ。(タイで)大きな成功を収めたビジネスマンにとって、政治は"いいもの"ではない。2分された勢力のどちらかにつけば、権力が失われたときにビジネスが危険に晒されるからだ。その点、ヴィチャイはうまく立ち回った。フットボールクラブのオーナーになることで、世界中にその名を知らしめたことは、いい考えだったと思うよ。それは彼にとって"保険"になるのだから」
レスターのオーナーとして表舞台に立ち続けることによって、ヴィチャイはさまざまな敵から身を守っている。少なくとも、タクシンはそう見ているようだ。政情が不安定なタイで莫大な資産を守り続けるには、そのような"保険"が必要ということなのだろう。
■著者プロフィール■
ジェームス・モンターギュ
1979年生まれ。フットボール、政治、文化について精力的に取材と執筆を続けるイギリス人ジャーナリスト。米『ニューヨーク・タイムズ』紙、英『ワールドサッカー』誌、米『ブリーチャー・リポート』などに寄稿する。2015年に上梓した2冊目の著作『Thirty One Nil: On the Road With Football's Outsiders』は、同年のクロス・ブリティッシュ・スポーツブックイヤーで最優秀フットボールブック賞に選ばれた。そして2017年8月に『The Billionaires Club: The Unstoppable Rise of Football's Super-Rich Owners』を出版。日本語版(『億万長者サッカークラブ サッカー界を支配する狂気のマネーゲーム』田邊雅之訳 カンゼン)は今年4月にリリースされた。
4 / 4