2018.06.26

「大人の事情」に巻き込まれたサラー。
嫌気がさして代表引退の噂

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki スエイシナオヨシ●写真 photo by Sueishi Naoyoshi

 6月25日、ボルゴグラード・アレーナ。エジプト対サウジアラビア戦の前半22分だった。エジプト代表モハメド・サラーは美しい軌道の先制点を決めている。

 相手ボールを自陣で奪った後のカウンター。サラーはディフェンスラインの裏に入ったパスに反応した。サウジアラビアのディフェンダー2人の間に入り込むと、利き足の左足でボールを丁寧にコントロールした後、向かってきたGKの鼻先を破るように、左足で頭上に浮かせた。バウンドしたボールは、ふわりとゴールネットを揺らしている。

 本来なら、歓喜を爆発させる瞬間だろう。

 ところが、サラーは喜ぶ様子を見せなかった。駆け寄ってきたチームメイトとは小さく抱擁をかわしたが、むしろ憮然としているようにさえ見えた。歓喜に沸くスタンドと、コントラストを作っている。

サウジアラビア戦で先制点を挙げたが、モハメド・サラーに笑顔はなかった その直後にも、サラーはオフサイドラインを破って裏に駆け抜けてスルーパスを受け、GKとの1対1に持ち込んでいる。しかし、フィニッシュは集中力に欠けており、ボールは枠を外れた。

「サラーは代表を取り巻く環境に嫌気がさし、代表引退を考えている」

 試合前から、そんな噂がまことしやかに流れていた。

 ロシアW杯、エジプトはウルグアイに0-1、ロシアに1-3と完敗。たった2試合で大会が事実上、終わってしまった。この体たらくに国内では批判が吹き荒れた。とくに槍玉に上がったのは、監督であるエクトール・クーペルだった。

「1億人のエジプト人の夢だったW杯出場を果たせた」

 選手たちは全面的にクーペルを擁護したものの、批判は収まらなかった。