あのベッカムが「話せる男」に変身。そのスピーチで聴衆をメロメロに (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 しかし自己を高める意欲に満ちたベッカムは、スピーチのトレーニングを受けて、話すことを学んだ。今の彼は、ようやく自分が何者かを語れるようになった。しかも、きちんと完結した文章で話すことができる。

 僕もこのイベントのゲストスピーカーだった。舞台裏で待っていると、ベッカムの一行がホテルを出たという知らせが入ったらしく、スタッフがざわつきはじめた。南アではおなじみのレストランチェーン「ナンドズ」から、チキンの出前が届く。

 気がつけば、ベッカムはステージ上にいた。41歳。額にはしわが刻まれているが、体つきは、平均的なイギリス人が気分を害すほどだった現役時代と変わらず、完璧なまでにすらりとしている。

「ソウルサイクル」という有名ジムでワークアウトをやっていると、ベッカムは明かした。もちろん、ワークアウトくらいやるだろう。今のベッカムが自分について話したがっているのは、「人生とは鍛錬の連続」ということだ。

「うちの両親はとても働き者でした」と、ベッカムは進行役のトーマス・ムランボに語った。今までとは違い、少し上品で低い声だ。

「母は美容師で、父はガスの配管工でした。父が朝6時に仕事に出かけ、夜7時に帰ってくるのを、私はずっと見ていました。私がトレーニングに全力を注ぐのは、両親の影響です」

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