安い買い物だったマンU。クラブは金儲けの手段になった (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper  森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 オールド・トラフォードのチケットはたいてい完売になるから、グレイザー家はさらにチケット価格を引き上げることもできなくはない。だが、グレイザー家はそんなことはしない。その必要がないからだ。グレイザー家は誰よりも早く、ユナイテッドにとって大きなチャンスの場を見いだした。

 それは世界だ。ユナイテッドは外国に数億人のファンを持っているが、その大半はオールド・トラフォードを見たこともない。こういう顧客から金を引き出すには、グローバルなスポンサー契約を結ぶのがいちばんいい。グレイザー家はスポンサー契約に新たな道を切り開いた(スポンサー契約だけはグレイザー家が自分たちの手でやりたがる)。

 ほかのクラブならスポンサーからオファーが来るのをただ待っているだけだが、ユナイテッドは違う。スポンサーになる見込みのありそうな企業にみずから接触する。ユニフォームの新しい広告が必要になったら、ユナイテッドはスポンサー候補の名前を入れたユニフォームの試作品をそれぞれ作り、高級そうな黒い箱に入れ、スポンサー候補企業の幹部に送る。

 ナヤニはこの作業の意味をこう説明している。「自社の名前が入ったユニフォームをウェイン・ルーニーが着たらどんな感じに見えるかなどと想像してもらう必要はない。それはもう、こちらでやっていることだから」。保険会社のエーオンがユナイテッドのユニフォーム・スポンサーになったのは、「広告の入ったユニフォームの見本が、マーケティング部門のトップに就任したばかりのフィル・クレメントのデスクにいつのまにか届いていたためだ」という。

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