ミランの監督に就任したセードルフは、新しい儀式を取り入れた (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 元オランダ代表監督マルコ・ファン・バステンは、セードルフを監督に据えたミランは「大きなリスク」を冒したと語った。それは確かだろう。セードルフには監督の経験がない。だが元ミラン監督で現在はレアル・マドリードを率いるカルロ・アンチェロッティは、セードルフが監督に指名される1ヵ月前に「セードルフはすばらしい人間性を持った選手だ」と僕に語り、彼なら優れた監督になるだろうと言っている。

 セードルフがミランで過ごした10年間を知っている人たちは、たいていアンチェロッティと同じように思っている。だからセードルフは、ミランのトレーニング施設「ミラネッロ」の伝説的な「5号室」(監督のオフィス兼ベッドルーム)に引っ越すことができた。アンチェロッティはこう書いている。「あの部屋に初めて入ったとき、何か強いものを感じた。部屋を使っていた監督たちの存在感とでも言えばいいか。私が使っていたベッドは、かつてネレオ・ロッコやアリゴ・サッキ、ファビオ・カペッロのものだった」

 セードルフがカペッロとアンチェロッティから影響を受けていることは間違いない。しかしセードルフは世界を知っているから、彼が最も影響を受けた指導者はアメリカのバスケットボールコーチ、フィル・ジャクソンかもしれない。物静かでメンタルを重視する指導法から、彼はアメリカで「ゼン・マスター(禅導師)」と呼ばれている。「フィル・ジャクソンがあわてている姿など見たことがない。だから彼は、選手たちに強い影響を与えてきた」と、セードルフは語っている。

 ミランの監督に就任してすぐに、当然ながらセードルフは選手の人格形成のために新しい儀式を取り入れた。勝っても負けても、試合後に選手たちがひとつの輪をつくる。

「そうすれば、みんなが互いの目を見ることができる。どんな結果だろうと、みんなの力によるものだと確認できる」と、セードルフは言う。

 初めてミランを率いたベローナ戦で、セードルフはまさにオランダ人監督らしさを発揮した。彼はフォーメーションを4-2-3-1に変え、3人の攻撃的MFにカカとロビーニョ、そしてCSKAモスクワから新たに獲得した本田圭佑を並べた。ミランは試合開始からベローナにプレスをかけ、相手陣内で試合を進めた。ミランを首位と勝ち点30ポイント差の11位に低迷させていたマッシミリアーノ・アレグリ前監督のチームに比べて、はるかに攻撃的なフットボールを見せていた。

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