早熟の天才セードルフ。こんな変わり者に監督をやらせるのはミランしかない

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】ミラン監督に就任したセードルフの素顔(前編)

 クラレンス・セードルフがミラノのリナテ空港に降り立ち、サン・シーロ・スタジアムへ向かう車に乗り込むと、イタリアのテレビ局は車がスタジアムに到着するまで彼を生中継で追いつづけた。ACミランの新監督となった37歳のオランダ人は、そんな期待のなかでミラノにやって来た。だがセードルフは、これしきのフィーバーに驚く人物ではない。本田圭佑の新しいボスとなった彼は、監督という仕事が自分の天職であることをまったく疑っていない。

ミランのクラレンス・セードルフ監督(左)と本田圭佑(BUZZI/FOOTBALL PRESS)ミランのクラレンス・セードルフ監督(左)と本田圭佑(BUZZI/FOOTBALL PRESS) セードルフには監督の経験がないものの、彼の頭の中では16歳のときからトップレベルにあるクラブを率いていた。もしセードルフがミランで成功したら、それは彼を抜擢したクラブの上層部とクラブ所属のスポーツ心理学者をほめるべきだろう。こんな変わり者の天才に監督をやらせようというクラブは、他にないだろうから。

 セードルフは南アメリカ北東部にある元オランダ植民地のスリナムに生まれた。生まれたときから貫禄のある風貌だったので、看護師たちは赤ん坊に「キング・コング」というあだ名をつけた。生後8日目には母乳だけではおなかがいっぱいにならず、キャッサバのおかゆを追加するようになったと、セードルフのすばらしい伝記の著者であるオランダ人作家シモン・ズワルトクロイスは書いている。

 それ以降、セードルフの人生は周りより何歩も先を行くようになった。幼稚園では事実上の園長を務め、子どもたちがおもちゃの取り合いをしていれば仲裁に入り、親と離れて寂しがっている子がいれば慰めた。

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