レアルはなぜベイル獲得に1億ユーロも出したのか (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 クラブの存在意義はグラウンドでの勝利を求めることであり、利益を得ることではない──ファンも選手も理事もスポンサーも、たいていそんなことを言う。スポーツ経済学者のステファン・シマンスキーとペドロ・ガルシア・デル・バリオは、この見方が正しいかどうかを確かめるために、スペインとイングランドのクラブについて検証した。

 もしクラブが収益を出したいのなら、支出を収入より低く抑えなくてはならない。そのためには、選手の年俸を低く抑えることも必要になってくる。だが、そうしようとすると、いい選手は獲得できない。

 選択はふたつにひとつだ。勝利が欲しいなら、利益を犠牲にしなくてはならない。利益を増やしたいなら、勝利を忘れなくてはならない。ステファンとペドロが達した結論は明快だった。クラブが求めていたのは利益ではなく、勝利だった。

 しかし、勝利がすべてというわけでもない。「フットボールは輝きを求める」と、トットナムの名選手だったダニー・ブランチフラワーはかつて語った。ペレス会長がベイルを獲得するために使った1億ユーロには、レアルのファンに対するマーケティング面でのプレゼントという意味合いもありそうだ。ベイルが試合に出るというだけで胸がドキドキする経験は、実際に勝利を手にするのと同じくらい楽しいものだろうから。

 ベイルは、レアルが彼を獲得する代わりにアーセナルに売ったメスト・エジルを超える選手ではないかもしれない。けれども、ベイルがドキドキ感を高める新しい刺激になることはまちがいない。1億ユーロという金額は、ベイル自身の輝きを増すための材料でもある。

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