ユベントス会長「イタリアは一流選手の最終目的地ではなくなった」 (3ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 たとえばレプリカユニフォームを売るという簡単に思えることでも、とアニエリは話しはじめる。イングランドやドイツならチームが新しいユニフォームを出せばファンが飛びつくが、「イタリアでは偽物のユニフォームを買う。偽物の横行はこの国の大きな問題だ」。経済が冷え込んでいる国では、みんな財布のひもが固くなる。

 イタリアのクラブが新しいスタジアムを建設するにはハードルがある。「新しいスタジアムの建設を促す法律をつくるべきだという議論が始まって、もう10年になる」と、アニエリはため息をつく。

 彼がため息をついている問題の大半は、フットボール界にとどまらない「イタリアの問題」ではないのかと、僕は言った。イタリアは2001~10年の経済成長率がハイチとジンバブエに次いで低かった。アニエリの父ウンベルトはかつて「このチームは国とともに成長する」と語ったことがある。今は国がチームの足を引っ張っているということか? 「そのとおり」と、アニエリは言った。

 政治の話題になると、アニエリの口調は慎重になる。だがイタリアの問題を解決する方法を考えるうちに、彼はイギリスに目を向けるようになった。

「私たちはイギリスの歴史を再度よく勉強したほうがいいと思う。(70年代にイギリス首相を務めたジェームズ・)キャラハンからサッチャーに至る時代を、そして80年代にイギリスがどれだけ厳しい姿勢で国の針路を変えたかを学ぶべきだ。あのときのイギリスのような覚悟を、イタリアは持っているだろうか。そう願いたい。しかし(総選挙後に新政権を樹立できず政治の空白が続いた)この2ヵ月間を考えると、とうていイギリスのような力を見せることはできていない」

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