ブラジルW杯を前に「腐敗の打破」に取り組み始めたサッカー大国 (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 たいていの国と同じく、ブラジルでも腐敗は日常茶飯事だった。この感覚はオランダ人ジャーナリストのヨリス・ライエンダイクが、中東について書いた『こうして世界は誤解する』(英治出版)の中でうまく表現している。腐敗した国は、体制が腐敗しているだけではない。ライエンダイクに言わせれば、それ以上に「腐敗そのものが体制」なのだ。腐敗が物事を進める。腐敗があらゆるネットワークをつくる。そして腐敗は政府で働く動機にもなる。

 国際的な汚職監視団体トランスペアレンシー・インターナショナルが毎年発表している「腐敗認識指数」で、ブラジルは176カ国のうち69位だ。スペインやアメリカ程度にクリーンになるだけでも、ブラジルにとっては革命的な変化といえる。経済発展が著しい新興国BRICs(ブリックス=ブラジル、ロシア、インド、中国)のなかでも、ブラジルのような試みを始めた国はほかにない。「腐敗の体制」を打破することに本腰を入れているのはブラジルだけだ。

 ブラジル人特有の魅力のおかげだろうか、ブラジリアの官僚たちが腐敗との闘いについて語るのを聞くと、彼らの言うことを心から信じたくなる。ただ、ある程度は話を差し引いて聞いたとしても、ブラジルで何かが始まっていることは確かだ。

 政治家が訴追を免れるためだけに議員の職にとどまることができた国で、新たな法律が制定され、犯罪に手を染めた疑いのある多くの人間が公職に就けなくなった。刑務所が黒人と貧困層のためのものでしかなかった国で、ルラ前政権の官房長官だったジョゼ・ジルセウが禁固10年10カ月の有罪判決を受けた。これはルラ政権が野党議員の票を買収した「メンサロン(買収工作)事件」にからむものだ。

 現在のジルマ・ルセフ大統領が政権に就いてからの1年間に、7人の閣僚が汚職がらみで辞職した。スポーツ界ではブラジル・サッカー連盟の会長の座に長く君臨し、来年のワールドカップでも運営のトップに立つと思われていたリカルド・テイシェイラが、いくつものスキャンダルへの関与を取りざたされて昨年3月に辞任している。
(つづく)

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