2012.10.28

【イングランド】欧州のトップリーグから黒人監督がいなくなった

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by GettyImages

PSGを解任されたアントワーヌ・コンブアレ。後任にはカルロ・アンチェロッティが就いた【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】サッカーと人種差別(前編)

 イングランドのフットボールは、人種差別との闘いの先頭に立っているようにみえるかもしれない。リバプールのルイス・スアレスとチェルシーのジョン・テリーが、対戦相手に人種差別的な発言をしたとして重い処分を受けたことは記憶に新しい。

 10月半ばのU-21欧州選手権予選で、セルビアのファンがイングランドU‐21代表選手に向かって猿の鳴きまねをしたり石を投げたりしたときも、イングランドのフットボール界は怒りをあらわにした。「UEFAはセルビアを国際大会から締め出すべきだ」と、イングランドとウェールズの選手でつくるプロフットボール選手協会のクラーク・カーライル会長は言い切った。

 しかしイングランド・フットボールの中心に、ひとつ欠けているものがある。黒人監督だ。これまでイングランドは、ピッチ内や観客席での人種差別と懸命に闘ってきた。次に必要なのは、クラブのオフィスから人種差別を一掃する闘いだ。

 イングランドのプロフットボール選手のなかで、黒人や人種的マイノリティーは全体の4分の1を超えている。しかし現在92チームあるイングランドのクラブに、黒人監督は3人しかない。ノリッジのクリス・ヒュートン、チャールトンのクリス・パウエル、そしてノッツ・カウンティのキース・カールだ。

 イギリスのデイビッド・キャメロン首相までがこの問題について発言しはじめたことで、「黒人監督の不在」はいっそう大きな意味を持つようになった。「黒人やマイノリティー出身の監督やクラブ幹部が、より多く第一線で活躍することは非常に重要だ」と、キャメロンは2月に語った。

 同じ問題は西ヨーロッパ中にみられる。フットボールクラブの運営について約150回のワークショップを開き、ヨーロッパ中から参加者を集めたあるフットボール関係者は、全体を通して黒人の参加者はひとりもいなかっただろうと言う。フランスのジャーナル・ドゥ・ディマンシュ紙は昨年4月、ヨーロッパ諸国すべてのトップリーグを調べて、黒人監督が4人しかいないことを突き止めた。ルート・フリット(ロシアのテレク・グロズヌイ)、アントワーヌ・コンブアレ(パリ・サンジェルマン)、ジャン・ティガナ(ボルドー)、ダウト・ファキラ(ポルトガルのオリャネンセ)である。