2012.10.29

【イングランド】反差別の国でも黒人監督が生まれにくい理由

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by AP/AFLO

現役時代はフランス代表として名声を博し、リヨン、フラム、ボルドーなどを率いてきたジャン・ティガナ【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】サッカーと人種差別(後編)

 監督の仕事は、市場の公平性が低いことに加えて、チームの順位をそれほど大きく左右しているわけではないようだ。スポーツ経済学者のステファン・シマンスキーの推計によれば、選手年俸の総額から予測できる順位よりつねに上位にチームを導いていた監督は、10%程度にとどまっている。他の監督はほとんど何の役割も果たしていない。試合に勝っているのは選手たちのおかげで、監督はあまり関係がないことになる。

 監督の主な役割といえば、試合後の記者会見にそれなりの容姿で出席し、それなりに重みのある発言をして、ファンや選手、スポンサーやメディアを納得させることだ。クラブが選手を客観的な基準で評価しているとすれば、監督については主観的な基準で選ぶことができる。容姿、髪形、現役時代のキャリア、そして「監督らしく」見えるかどうかだ。

 こうした主観的な基準は、黒人に対して不利に働く。それはフットボール界で物事を決める立場にある白人の多くが、黒人について紋切り型の悪いイメージを持っているためだ。

 彼らは紋切り型のイメージを、たいてい無意識のうちに抱いている。黒人を監督に雇いたがらないクラブの会長は、自分が人種差別主義者だとは決して思わないだろう。アントワーヌ・コンブアレは「サポーターやスポンサー、テレビ局よりも、どちらかといえばクラブの理事の側に、ある種のためらいが感じられる」と言う。

 フットボール界には、「黒人には監督の能力がない」というイメージが今も残っている。「白人男性で選手経験があり保守的な髪形をしている人物」以外を監督に据えたクラブは、その選択が失敗した場合を心配しなくてはならない。だから黒人監督を雇うのは、まだリスクが伴うように思えてしまう。