【イングランド】欧州のトップリーグから黒人監督がいなくなった (2ページ目)
それから1年半が過ぎた今、この4人のうち監督の座にある人物はひとりしかいない。そのひとりとはコンブアレだが、彼が率いているクラブはパリ・サンジェルマンではなく、格では劣るサウジアラビアのアル・ヒラルだ。パリ・サンジェルマンは昨年12月、チームが首位に立っていたのにコンブアレを解任した。これによってフランスのトップリーグには、黒人選手はたくさんいるのに、黒人監督はひとりもいなくなってしまった。同じくオランダのエールディビジも、黒人選手は多いのに黒人監督はひとりもいない。いったいどういうことなのか。
僕と一緒に『「ジャパン」はなぜ負けるのか──経済学が解明するサッカーの不条理』(NHK出版)を書いたスポーツ経済学者のステファン・シマンスキーは、フットボール界の矛盾を指摘する。クラブは黒人監督を差別しているが、黒人選手に対してはそんなことはないようなのだ。
シマンスキーのみるところ、これは選手の場合にはパフォーマンスの良し悪しがわかりやすいためだ。選手は人々の目の前で仕事をする。ときには数百万、数千万人に仕事の良し悪しを判断される。
だから選手の年俸総額は、クラブの順位を予測するのにうってつけの要素になる。大まかにいえば、選手の年俸総額が高いクラブほど、リーグ順位は高くなる。フットボール選手の市場は、あきれるほど公平だ。フランス代表の最多出場記録を持ち、現在は反人種差別運動の先頭に立つリリアン・テュラムは僕に言った。「選手は実に細かなパフォーマンスを評価されている。主観的な基準といったものはほとんどない」
シマンスキーと僕が調べたところでは、イングランドでも1990年より前には黒人選手の年俸が白人に比べて低い傾向があったが、そうした賃金差別はやがて消えた。黒人選手が白人に劣らない実力を示したためだ。
しかし監督の市場の公平性は、選手の市場に比べてはるかに低い。監督は大半の仕事を人の目が届かないところでやっているため、評価がむずかしい。
(後編に続く)
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