【イングランド】フェルナンド・トーレスに何が起きているのか (2ページ目)

  • マーク・バーク●文 text by Mark Burke 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by Getty Images

 トーレスはワールドカップで優勝し、欧州選手権でも優勝し、大金持ちで、世界の数百万数千万人があこがれる存在だ。ところが自信を失うと、彼の羽は傷つき、飛べなくなる。プレイのリズムが崩れ、ボールタッチは危なっかしくなり、走りにためらいが見え、フィニッシュは弱くなる。

 自信はフットボールで最も重要なものだ。目には見えず、触れることもできないこの自信というものが、タイトルの行方を左右し、クラブの昇格・降格を決め、監督の去就に影響を与え、ワールドカップの行方にまで関係する。

 私は日本でプレイしていたとき、トットナムの伝説ともいえるスティーブ・ペリマンと友人になった。ペリマンによれば、かつてオズワルド・アルディレスは彼にこんなことを言っていた。自信があるときは世界をたたきのめせるようにも思えるが、自信をなくしているときは並の選手とやり合うのも厳しい気になる......。これがアルディレスの言葉、ワールドカップを制したあのオジーの言葉だ。

 私も現役の頃には、自信が揺れているのを感じたことがある。「揺れる」という表現は、その状況にぴったりだと思う。

 自信が揺れると、すべてが狂いはじめる。ひどいパスを出してしまう。ボールコントロールがうまくいかなくなる。震えが走る。観客が何かうめく。するとまた、ひどいパスを出す。観客のうめきに別のトーンが入る。ちょっと聞いただけではわからないが、強烈なメッセージを感じる。選手たちの心には、このかすかなトーンの変化が届くのだ。

 10分前にはすべてがうまくいっていた。だが今は、自分への疑いしかない。10分前にはどんなことも簡単にやれた。だが今は、キャリアをかけてつくり上げてきたリズムが崩れている。

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