【Jリーグ】ラモン・ディアスに聞いたストライカーの神髄 初代得点王には「数秒後の未来」が見えていた (3ページ目)
【ボール1個が通るコースを狙う】
身長172cmだったが、ヘディングシュートも決めている。パワーを持ってゴール前へ飛び込んでいくのではなく、密集のなかでスルリと頭を出してボールに触れるイメージである。ここでもポジショニングの妙を発揮している。
なぜ、あそこにいたのか。あそこへ走り込めたのか──。そんなゴールがいくつもあった。試合後にその理由を聞く。彼の答えは決まっていた。
「味方を信じて、ゴール前へ走り込む。点を取るという自分の仕事に集中するのです」
イタリアとフランスで結果を残したストライカーでも、点を取るためのシンプルな作業を怠らない、ということなのだろう。ただ、同じ答えを何度も聞いていると、こちらも少し物足りなくなる。
ストライカーとしての神髄を、もう少し深いところまで知りたくなる。あれこれと質問を変えていくうちに、ディアスは言った。
「相手をしっかりと観察するのです」
ペナルティエリア内でパスを受ける。目の前にはDFがいる。シュートコースを消している。
それでも、ディアスはコースを見つける。決して大げさではなく、ボール1個が通るぐらいのわずかなコースから、ゴールネットを揺らしてみせた。相手が警戒している左足を、時に強く、時に柔らかく振って。
ゴール前の彼は、打ち急ぐことがない。切り返しで相手DFを滑らせたあとのゴールが多かったのは、ギリギリまでシュートコースを探るからであり、彼よりも先に相手DFが焦れていたからなのだろう。
ディアスには、数秒後の未来が見えているようだった。ひょっとしたら本人が喜んでくれるかもしれないと期待して、ある試合後にそんな言葉を投げかけた。
通訳の言葉を聞いたディアスは、ちょっとだけ笑って答えた。
「もし未来が見えていたら、私はもっとうまくプレーできているし、もっとたくさんゴールが取れているよ。今日の得点も、味方を信じてゴール前へ走り込んだ結果です」
彼との言葉の駆け引きは、いつも完敗だった。
著者プロフィール
戸塚 啓 (とつか・けい)
スポーツライター。 1968年生まれ、神奈川県出身。法政大学法学部卒。サッカー専
門誌記者を経てフリーに。サッカーワールドカップは1998年より 7大会連続取材。サッカーJ2大宮アルディージャオフィシャルライター、ラグビーリーグ ワン東芝ブレイブルーパス東京契約ライター。近著に『JFAの挑戦-コロナと戦う日本 サッカー』(小学館)
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