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【Jリーグ】横浜F・マリノス低迷の背景にあるものとは 今季新体制に移行した名門クラブの誤算 (2ページ目)

  • 取材・文●舩木渉 text by Funaki Wataru

ホーランド監督の誤算と低下する求心力

 ところが、蓋を開けてみると理想と現実の大きなギャップが露わになった。ホーランド監督はプレシーズンキャンプ中から丁寧に新システムの落とし込みを進めてきたが、練習試合をやってみると思ったように機能しない。結局、開幕してすぐに、じっくり仕込んできたはずの3-4-3を捨て、昨季までと同じ4-2-3-1へと回帰していくことになる。
 
 この迷走が、選手からの信頼を損ねる原因のひとつになった。3-4-3の導入によって間違いなく守備への意識は高まり、自陣ゴール前での粘り強さには明らかな改善が見えた。
 
 一方で"失点を減らすこと"に意識が向きすぎ、肝心の攻撃で正しい方向性を示せずにいた。マリノスの武器だったはずの攻撃力が失われ、守備に奔走するばかりでボールに関わる機会が減った前線の選手は不満を溜めていく。リーグ開幕戦でPKによる1点を決めて以降、ゴールから遠ざかった昨季J1得点王のアンデルソン・ロペスは、公然と不満を口にするようになり、新体制で出場機会が激減した同胞のエウベルとともにモチベーションの低下を隠せなくなっていった。
 
 なぜチームのバランスが崩れてしまったのか──。ある日の練習後、5年ぶりにマリノスに復帰したGK朴一圭と話していると、彼がポロッとこぼしたことがあった。
 
「キャンプでやったロアッソ熊本との練習試合で、PKにつながった僕のパスミスがありましたよね。あの後、ロッカーで結構怒られたんですよ。それでチーム内に『あのプレーはダメなんだ』という意識が生まれ、できるだけリスクを冒さないようプレーするようになってしまった気がするんです」
 
 1月26日に35分×3本で行われた熊本戦の1本目終了間際、1点リードの状況で朴は狭いスペースに速い縦パスを刺した。受け手がそのまま反転できれば一気にチャンスにつながりそうな場面だったが、遠野大弥がコントロールを誤ると、熊本のカウンターを自ら止めようとしてPKを与えてしまう。結局、それを決められて1-1で2本目へと向かうことになった。
 
 直後のロッカールームでは、ホーランド監督が「勝ちにこだわってほしい。勝ち癖をつけることが重要だ」と選手たちに訴えかけた。朴に対しても「勝っている状況で折り返せたのだから、わざわざ難しい状況を作るのではなく、もっとシビアに判断してほしい」という要求があった。
 
 指揮官としては、練習試合でも公式戦と同じ水準で勝利にこだわる姿勢を見せて欲しいと伝えたかったのだろう。しかし、実際はプレシーズンだからこそできるはずのトライに意欲的だった選手たちを萎縮させてしまい、影響は長く尾を引くことになる。

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