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浦和レッズの草創期を支えた「寡黙なレフティ」ウーベ・バイン 福田正博の信頼は絶大 (2ページ目)

  • 戸塚 啓●取材・文 text by Totsuka Kei

【バインと福田のホットラインが完成】

 イエボアを得点王にしたこのレフティは、いったいどんな選手なのか──。

 当時はまだ海外サッカーを日常的に見ることができず、僕自身のバインの記憶は1990年のイタリアワールドカップがいまだ色濃い。「左利きでパスセンスに優れる」という定型のセンテンスにもっと多くの情報を書き込みたくて、バインの実戦デビューを楽しみにしていた。

 ところが、1994年のセカンドステージ開幕節でリーグ戦デビューを飾ったものの、スタメンには定着しなかったのである。小さなケガに悩まされた。

 本領を発揮したのは、翌1995年シーズンだ。浦和のシンボルにして日本代表の福田正博と、ホットラインを開通するのである。

 ふたりのやり取りは、シンプルそのものだった。シーズン開幕前のキャンプで、福田はこんなやり取りをしたと記憶している。

「足もとで受けるのが好きなのか、スペースでほしいのか、どっちなんだ?」

「俺はスペースで受けたいんだ」

「分かった」

 浦和を離れた数年後、ドイツにバインを訪ねた。このやり取りについては、バインにも聞いておきたかった。

 現役時代のトレードマークだった口ひげを落としたバインは、「まあ、そんな感じだっただろうね」とうなずいた。表情は柔らかい。福田とのホットラインは、彼にとって邂逅(かいこう)と言っていいものだったのだろう。

「自分のパスからゴールを決めてくれる。それが、うれしくないはずがないでしょう」

 難しいプレーはしていない。DFの背中を鮮やかに奪うスルーパスも、ゴールへパスをするようなシュートも、どちらかと言えば簡単に見えたものだ。

「難しいことはやっていません」とバインも言う。「出すべきところへパスを出す。意識したのはそれだけです」と話した。

 彼がこだわったのは、精度である。そのパスはミリ単位と言っていいぐらいだった。1994年から在籍する野人・岡野雅行は、「俺と目が合ったら走れって言われて、ホントにそのとおりにパスが出てくるんです。僕はディフェンスの裏へ走るだけでいいんですよ」と、興奮気味に話した。

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