「サッカーはジャズ」と表現する西大伍は今、J3の舞台で何を想うのか...そして「引退」について語る (4ページ目)

  • 高村美砂●取材・文 text by Takamura Misa

 その状態を作れていれば、"ジャズ"を奏で続けられるということか。

「いや、そうとも限らないから難しい。さっきのアンドレスの話と一緒で、奏でるにはやはり個の質がある程度そろわなければいけないから。つまり、そっちの楽しさがほしいなら、当然ながらより高いステージ、強いチームを求めなければいけない。だから今は正直、そこと戦っている自分もいます。言うまでもなく、クラブから必要とされなければ、実現できないんですけど。

 だから、現状を受け入れてキャリアを終える......のもひとつだと思っているし、最後、一か八かで、C契約の最低年俸でいいから、J1のクラブに売り込んでみようかな、みたいなことも最近は考えます(笑)。それで自分が両方の楽しさを手に入れられるなら、お互いにとって悪い話ではないはずなので。僕、意外と巧いし、J1でもそこそこやれるはずだから(笑)。もちろん、たとえJ1でも奏でることは簡単じゃないとは思うし、もしかしたら自分の感覚が時代遅れになっている可能性もあるけど」

 本気とも冗談とも取れる言い回しで引退に触れたが、いずれにしてもその時が近づいているという自覚はある。「周りが思うほど、重くは捉えていない」そうだが。

「サッカー選手にとっての引退って、いわゆる、転職だから。僕も、サッカーよりもやりたいことがあれば、その時は転職します。プレーするだけなら、プロじゃなくてもどこででもできますしね。それこそが、サッカーが世界中で愛される理由でもある。

 なので、あまり考えすぎず、自分が思う道を進めばいいのかな、と。結局、その道を正解にできるかは、自分次第だから」

 もっとも、それらはすべて未来の話。今はまず、グルージャでの時間を全力で過ごさなければいけないという自覚がある。20年近いキャリアを重ねてきた西のこと。今の先にしか未来がないことは百も承知だから。何より、彼にとってのサッカーは、相も変わらず「本気で、妥協なくやるから楽しいもの」だから。

(おわり)

西大伍(にし・だいご)
1987年8月28日生まれ。北海道コンサドーレ札幌のアカデミーで育ち、2006年にトップチームへ昇格。2010年、アルビレックス新潟に期限付き移籍。翌2011年には鹿島アントラーズに完全移籍。「常勝軍団」の一員として、数々のタイトル獲得に貢献した。Jリーグベストイレブンにも2度(2017年、2018年)選ばれた。その後、ヴィッセル神戸、浦和レッズ、札幌を経て、2023年からJ3のいわてグルージャ盛岡でプレーしている。

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