「サッカーはジャズ」と表現する西大伍は今、J3の舞台で何を想うのか...そして「引退」について語る (2ページ目)

  • 高村美砂●取材・文 text by Takamura Misa

 じゃあ、その基準を国内で上げるにはどうすればいいのかを考えた時に、イニエスタとやりたい、と。正直、金銭面は鹿島と変わらなかったけど、世界ナンバーワンを体感したいと思いました」

 そして、そのイニエスタと過ごした神戸での2年間は、西にとってより深く、サッカーの本質に触れる時間になった。

「アンドレス(・イニエスタ)のすごさを言葉にするのは難しいというか。基本的にめちゃめちゃ口数が多いわけでもないし、何を聞いても『あまり考えていない』という答えがほとんどでした。でも、それがひとつの答えだと思いました。

 つまり、プレー中に何かを考えた時点で、もう遅い。実際、アンドレスは、脳に刻まれているいろんなシーン、プレーの引き出しから、状況に応じてプレーを取り出し、実行に移すまでの判断のスピードと正確性がずば抜けている。しかもまったくボールを見ずにやるから、もう半端ない!

 あと、ああ見えて、アンドレスでも結構ミスはするんです。タッチミスも意外とあります。でも、たとえばトラップしたボールがちょっと浮いちゃっても、浮き球を利用して相手を交わしにいくというように、ミスを利用して活かすまでの反応速度もすごく速い。もしかしたら、ミスも計算でやっているかもしれないですけど。

 ただ、そうした刺激はたくさん得ながらも、彼ほどの選手でもそれをチームとしての結果につなげるには、ひとりじゃ無理だと感じたというか。一定レベル以上の基準を持った選手がチームの過半数以上は必要だと思いました。やっぱり、サッカーは"ジャズ"なんだなって」

 この「サッカーはジャズ」だという表現は、西が日頃からよく使う表現だ。ヴィッセル時代に彼を取材した際も、繰り返し、口にしていたのを覚えている。改めて、その真意を尋ねてみる。

「サッカーは即興性のスポーツ。いろんな楽器がそれぞれの持ち味をもとに音を鳴らしてひとつの音楽を奏でるように、ピッチに立つそれぞれの選手が過去の経験から、自分の感性や持ち味を引っ張り出して融合させ、ジャズを奏でる。

 そして、そんなふうに全員が状況を把握し、いろんなことに気づきながら、ピッチ上でつながっていくのが、僕にとってのサッカーの楽しさでもあります。もちろんうまくいくことばかりじゃなくて、今日もいい演奏はできなかったね、みたいなこともあるけど、それも含めてサッカーだと思っています」

 話を戻そう。そうして新たな刺激を得たことにも後押しされて、西は2019年3月にフィールド最年長選手として、キリンチャレンジカップ2019を戦う森保ジャパンに選出され、ボリビア戦にフル出場する。

「2019年の日本代表は、自分のプレーができたし、ようやく日本代表でも戦える心と体の準備ができたように感じました。それを31歳で実感できて、サッカー人生はまだまだここからだと思いました」

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