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Jリーグ30年で忘れられない横浜F・マリノスの時代を超えてつながる敗戦 優勝目前の最終節で「魔物を見た」 (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by AFLO

【憔悴した選手たち】

「(終盤戦は)2点とるだけのパワーがなくなっていたんで。先制されて苦しくなりました」(中澤佑二)

 横浜FMは残り11試合、わずか6得点だった。ポイントゲッターのマルキーニョスが0ゴールという状況に陥っていた。

 川崎戦も終盤、マルキーニョスが何度かシュートを浴びせたが、ネットを揺らせなかった。齋藤のシュートもGKにセーブされた。攻撃は単発で、ちぐはぐさが目立った。

 横浜FMは0-1で敗れ、首位から陥落した。優勝を逃したことを意味していた。受け入れるのが難しい現実だっただろう。ミックスゾーン、魔物を見たように憔悴した選手たちの姿が忘れられない。

 しかし残り4試合、彼らは極端な尻すぼみで、1勝3敗とあまりに分が悪かった。結果だけを見ても、優勝するには何かが欠けていた。それは正念場で悪化を最小限にとどめ、相手をねじ伏せる勝負強さだったのか。

 川崎戦、取材エリアでメモを取っていない。後日改めて話を聞こう、というのはあったが、言葉が意味を持っていなかった。失望、不甲斐なさ、怒り、悲しさという感情を肌で感じた。

「天皇杯はあるんで」

 その言葉は真実だったかもしれない。前へ向こうとする姿勢だけが、闇のなかで一筋の光を見つけられる。人間の強さを感じられた。

 天皇杯決勝、横浜FMはリーグ優勝をかっさらったサンフレッチェ広島を2-0で下している。21年ぶりの戴冠。その姿は輝かしかった。

 そして10年近い時を超えて、当時の教訓は生きる。

 2022年、横浜FMはJ1で首位を独走していたが、終盤に連敗するなどやや息切れし、残り2試合で不穏な気配が漂っていた。しかし、チームは攻めることに活路を求め、最終節のヴィッセル神戸戦に勝利し、見事に優勝を決めた。周囲からは「悪夢の再来か!?」という重圧もあったはずだが......。

「みんなには『とにかくゴールに向かっていこう』と話していました。まずはFW、ウィングがゴールへ向かっていかなかったら、点はとれない。それがわかったら気持ちはシンプルになって、勝ちたい気持ちを出すことができました」

 横浜FMの遺伝子を継承する水沼宏太は、そう振り返った。

 ひとつの「敗戦」は、次のタイトル獲得や後世の後輩たちの戦いにつながっている。そのつながりにこそ、サッカーを感じる。Jリーグ30周年の歴史だ。

「Jリーグ生誕、おめでとう!」

著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

◆【画像】中村俊輔、中村憲剛、中澤佑二ほか 識者10人が選んだJリーグ30年のベストイレブン フォーメーション

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