くじ引きでメンバー決定から「俺がやる」に変貌。青森山田から1点を奪った阪南大高に見る今時の高校サッカーのリアル (2ページ目)

  • 森田将義●取材・文 text by Morita Masayoshi
  • 松岡健三郎●撮影 photo by Matsuoka Kenzaburo

【おとなしく真面目な選手たち】

 足元の技術に長けた選手が揃う今年は、3度目となる勝負の年。新チーム発足当初に、「うまいチームではなく、強いチームになってほしい」と話していたのも、選手の質に手応えを感じていたためだ。

 力は確かで夏のインターハイは実力の片鱗を見せ、4年連続での全国行きを決めたが、激戦区の大阪で夏冬連覇を果たすのが難しいのは濱田監督が誰よりも知っている。選手権予選が始まる直前になると、濱田監督はメンタル面で成長を促す賭けに出た。

 阪南大高はおとなしく真面目な選手が多い。忠実に戦術をこなせる利点もあるが、大舞台になると持ち味が出せなかったり、アグレッシブにプレーできない理由にもなり、2度あった勝負の年に勝てなかった原因となっていた。

 これまでいなかった、自己主張できる選手が出てきて欲しいとの想いを込めて、練習試合では出たい選手を志願するように求めた。濱田監督はポジションが被ったら言い争うくらいの気持ちが欲しかったが、出場するメンバーを選手同士が譲り合ったそうだ。

「俺のほうができると思うヤツは行け」と伝えれば、今度は"出なければいけない"と思って仕方なく名乗り上げるような状態で、指揮官が求めるメンタルとはかけ離れていた。予選の初戦も、選手にメンバーを決めさせたが、選手同士で譲り合った結果、最終的には出るメンバーをくじ引きで決めたという。

 普段は温厚な濱田監督だが、この時ばかりはさすがに選手に雷を落とした。最初は見慣れない指揮官の姿に戸惑う選手も多かったが、勝ち上がるにつれて"試合に出たい。勝ちたい"という想いがなぜ大事なのか、チームは身を持って気づいていく。

「怒られた時は『なんで?』となっていたのですが、今考え直せば濱田先生が言っていたことは正しかった。全員がそれを理解し、『勝ちたい』とか『俺が』という気持ちが出たのが結果につながったと思う」と振り返るのは、主将のFW鈴木章斗。

 濱田監督も、「僕が怒ったことに、選手はビックリしたと思う。最初は何を意味しているかわからない選手が多かったと思うけど、『俺がやる』と言う選手が増えたし、それを言われても変わらない選手も出てきた。最終的には勢いを持って戦えた」と続ける。

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