なぜサッカーはPK戦で勝負をつけるのか。かつては再試合、抽選、CKの数で勝者を決めた時代があった (2ページ目)

  • 後藤健生●文 text by Goto Takeo
  • photo by AFLO

【CKの数や抽選で勝敗を決めることも】

 他の大会でも、昔は「再試合」が行なわれていた。

 欧州チャンピオンズカップ(チャンピオンズリーグの前身)の1973-74シーズンの決勝戦はバイエルンとアトレティコ・マドリードの対戦となり、0-0で延長に入り、113分にアトレティコが先制したが、バイエルンが終了間際に同点とした。そこで、2日後に再試合が行なわれて、バイエルンが4-0で勝った。

 ワールドカップでも、昔は再試合だった。1938年フランス大会では1回戦のドイツ対スイス、キューバ対ルーマニア、準々決勝のブラジル対チェコスロバキアの3試合が引き分けに終わって、いずれも再試合が行なわれた。

 開催国のアルゼンチンとオランダの対戦となった1978年ワールドカップの決勝戦は、1-1のまま前後半90分が終了した。すると、延長開始前に「再試合の入場券は試合終了後にスタジアムの窓口で販売する」というアナウンスがあり、筆者も「試合が終わったら行列に並ばなければなぁ」と思ったことを記憶している(延長でアルゼンチンが2点を決めたので、再試合にはならなかった)。

 もちろん、延長戦は大昔から行なわれていた。延長でも勝負がつかなければ延長を繰り返すこともあった。1954年の第34回天皇杯全日本選手権大会の決勝は慶応BRBと東洋工業(サンフレッチェ広島の前身)の対戦となって、1-1のまま延長に入ったが、延長戦でも2点ずつをとり合って決着がつかず、結局20分の延長を4回繰り返し、合計170分間戦って慶応BRBが5-3で勝って優勝を決めた。

 1920年代にはコーナーキック(CK)の数で勝負を決めたこともあった。たしかに、優勢なチームのほうがCKが多くなる場合が多い。だが、そうなるとCKの数で勝っているチームは引き分けに持ち込もうとして守備固めをしてしまうし、そもそも最初からゴールよりもCKを狙うようなプレーが増えてしまう。そこで、このCK方式は1923年に禁止されてしまった。

 抽選で勝者を決めることもあった。日本と韓国が対戦した1956年6月のメルボルン五輪予選では、第1戦は日本が2-0で勝利し、第2戦は韓国が同じスコアで勝利。第2戦のあとの延長戦では得点が入らなかったため抽選となり、竹腰重丸監督が勝利のクジを引いて、日本が五輪出場権を獲得した。

 しかし、抽選というのは運、不運だけで勝負が決まるので、敗者にとっては割りきれない。その点「再試合」のほうが敗者にとっても納得がいくだろう。しかし、時代とともに選手たちの運動量は増え、試合の翌日または翌々日に再試合を行なうのは体力的に難しくなった。また、試合日程が過密化した現在では、スケジュール的にも再試合は不可能だ。そこで、新しい勝敗決定法が模索された。

 それが「PK戦」だった。

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