南雄太「果たせなかったら、現役引退を覚悟していた」。大宮アルディージャを最終節でJ2残留に導いたGKの思い (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Getty Images

【降格危機の大宮からオファー】

 以来10年、南はその言葉どおりの覚悟でゴールマウスを守り、自らの運命を引き寄せてきた。4シーズン、J2熊本の守護神を務めたあとは横浜FCに移籍。さらに6シーズン、ゴールマウスを守り、2019年には40歳で正GKとしてJ1昇格をもぎ取っている。2020年には12年ぶりのJ1試合出場を果たし、20試合でゴールを守った。

 これはひとつの偉業だろう。

「目の前のことに精一杯なだけですよ」

 謙虚に語る南は、円熟の境地に入っていた。

「一本一本を大事に、とは心がけています。一本で泣く。それがゴールキーパーだと思っているので。守りの選手はそういうところがあります。たとえばディフェンスがラインを10回上げた時、カバーリングも10回、丁寧にやるべきなんですが、『今回はいいや、どうせ(ボールは)出ない』と1回さぼると、それで不思議に失点するんですよ」

 2021年、南は横浜FCでカップ戦を含めて12試合に出場し、ピッチに立って戦っていた。しかし後半戦に向け、チームが新たにドイツ人GKを獲得する話も聞かされ、自分の立場を考えるようになった。選手入れ替えに舵をきったチームで、道が狭められるのは目に見えていた。そこでサブに甘んじるのも流儀と違っていた。

「でも42歳を前に、他のチームから声をかけてもらえるとは思っていませんでした。新たな挑戦ができる、目標に向かって戦える、というので、不安よりも楽しみで......」

 南はそう振り返り、J3降格の危機に陥っていた大宮からのオファーを受けたのだ。

「この歳までやっていると、『50歳まで?』なんて茶化すように言われる。でも自分は1試合1試合で生きていますよ。『落ちた』『劣化した』、すぐにそんな言葉を使われるんで、『未来なんてない』と思われているから、自分が立ったピッチで価値を見せ続けるしかない。1試合終わって一瞬、気持ちは解放されますけど、すぐに次の週って」

 南はその精神で戦い続けることで、硬骨なセービングを手に入れたのだろう。

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