南雄太「果たせなかったら、現役引退を覚悟していた」。大宮アルディージャを最終節でJ2残留に導いたGKの思い

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Getty Images

瀬戸際で戦った男たち(1)南雄太

 10月30日、大宮。相手はJ2首位に立つジュビロ磐田で、南雄太(42歳、大宮アルディージャ)は気迫を内側に封じ込めたような表情をしていた。降格回避を争うチームと比べると、実力差は歴然としていた。しかし、ゴールキーパーというポジションは、守りで安心を与えなければならない。チーム全体で落ち着いて戦うには、不安を見せることなど言語道断だ。

<若いチームだが、一人ひとりの力はある>

 南は最後方からポジティブにチームメイトに接し、成長を促すように叱咤激励した。息子のような年の差の選手もいるだけに、長年培ってきた経験を伝え、何か手を貸したかった。そもそも、ゴールはGKひとりでは守りきれない。

 南がもたらした守備の安定によって、攻撃も円滑に回った。その結果、序盤に先制に成功。前半はペースを握ったが、後半に戦力差が出る。味方のミスから失点し、それ以後は完全に押し込まれた。どうにか追加点を許さない時間が続いたが、アディショナルタイムに逆転弾を食らい、万事休すだった。

「自分たちのサッカーができなくて......。でも大宮は、よくなるポテンシャルはあると思うんです。今は必要とされてピッチに立たせてもらっていて、『生きているな』としびれを感じます。どうにか残留させるために頑張ります」

 残留戦の最中、南は苦しみのなかに人生の喜びを見出すように語った。そこにGKの肖像が見えた。
 
大宮アルディージャでJ2残留をかけて戦った南雄太大宮アルディージャでJ2残留をかけて戦った南雄太この記事に関連する写真を見る 南はJリーグを代表するGKである。J1での266試合出場は、現役GKでは屈指。J2での382試合出場も、指折りの記録だ。

「ピッチでプレーする選手だけが流れを変えることができます。だから、試合に出る選手は、その責任をもって全力で戦わなきゃいけない。俺は自分のサッカー人生、あとがないと思ってプレーしているし、勝つことでしか流れは変わらないと思うんです」

 2011年12月に刊行した拙著『フットボール・ラブ』(集英社)で、南は自らの物語をそう締めくくっていた。当時、32歳だった彼は名門、柏レイソルで12シーズンを戦ったあとに「戦力外通告」を受け、J2のロアッソ熊本にやって来て、再出発を図るところだった。言葉を換えれば、窮地に追い込まれていたということになる。

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