J1残留を争う湘南ベルマーレ山口智監督。足りないのは「遊び心みたいなもの」 (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 日刊スポーツ/アフロ

「湘南には初めて住みましたが、すばらしい環境ですね(笑)。サポーターもコロナ禍の影響で人数制限があるなかでも足を運んでくれましたし、優しいですよね。ガンバは、湘南とクラブの規模や求められるものが違うし、土地柄もあって厳しいヤジが多かったですが、湘南のサポーターは負けても堪えて、温かく応援してくれます。だからこそ選手や僕らは、もっと責任を負わないといけない。うちの選手は、温かく応援してくれるサポーターに甘えているところがあるんで、応援されていることは当たり前じゃないんだというのをより自覚してプレーしないといけない」

 サポーターは、どんな時も山口を支えてくれたが、家族の存在も大きかった。9月に監督になってから横浜FC戦に勝利するまで、2分3敗と結果が出ず、苦しい時間を過ごした。夜中に目を覚まし、サッカーのことを考えると眠れなくなった。そんな時に支えてくれたのは、家族だった。

「大学とユースでサッカーをしている息子がふたりいるんですが、試合を見て、どうだったとよく聞いていました。息子なので、気を使わずに『あの交代、なんやったの』と見たままに言いますし、フランクに話ができるんですよ。それはうちの嫁も同じで、いろいろ言ってくれるのでそういう見方もあるんだという気づきにもなるし、整理できるので、とても助かりました」

 山口は、家族との対話やランニングなどで気持ちを切り替え、試合に臨んでいたのだ。

 J1リーグは、いよいよ5試合を残すのみになった。前節に初勝利を挙げたが、山口自身は結果が出なかった時と姿勢は変わらない。そもそも結果が出なかった時から、この厳しい状況を楽しんでいるように見えた。

「今、こんな状況に置かれているなか、言える立場じゃないですけど、それを失ったらダメだと思うんですよ。しんどい状況が続いて、考え込むこともあるけど、指導者になるのが自分の目標でしたし、好きなことでもあります。この仕事に責任とやりがいを感じていますし、それを楽しむ余裕がないとうまくいかないと思っています。楽しむことは自分のなかではとても大事なことなんです」

 湘南のラスト5の対戦相手は、北海道コンサドーレ札幌、サンフレッチェ広島、ベガルタ仙台、徳島ヴォルティス、ガンバ大阪だ。古巣であり、残留争いを演じていたガンバと最終節で当たるところに、何か因縁めいたものを感じる。

「最後にガンバなんですよね。力のあるチームですし、最終戦で今まで以上にプレッシャーがかかると思うんですが、自分としては先を見るよりもまず目の前の相手ですね。残り5試合になると追い込まれて、心理面に影響が出そうになりますが、残留するという強い意識と覚悟をもって、伸び伸びと湘南らしいサッカーができるかどうか。それに尽きると思います」

 山口の姿は、ある監督と重なる。

 広島でミハイロ・ペトロビッチ監督が攻撃的サッカーを完成させたあと、森保一監督が守備を整備してリーグ優勝に導いた。湘南は、曺貴裁元監督が超攻撃的な「湘南スタイル」を生み出し、今、山口が守備を整備して新たな強みをプラスした。残留争いという厳しい戦いが続くなか、生き抜けば来年、山口の指揮の下、さらに進化した「湘南スタイル」が見られるかもしれない。ラスト5の戦いは単にJ1残留のためだけではなく、湘南の未来をも左右するものになる。

FMヨコハマ『日立システムズエンジニアリングサービス LANDMARK SPORTS HEROES

毎週日曜日 15:30〜16:00

スポーツジャーナリスト・佐藤俊とモリタニブンペイが、毎回、旬なアスリートにインタビューするスポーツドキュメンタリー。
強みは機動力と取材力。長年、野球、サッカー、バスケットボール、陸上、水泳、卓球など幅広く取材を続けてきた二人のノウハウと人脈を生かし、スポーツの本質に迫ります。
ケガや挫折、さまざまな苦難をものともせず挑戦を続け、夢を追い続けるスポーツヒーローの姿を通じて、リスナーの皆さんに元気と勇気をお届けします。

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