中村憲剛が妻の手紙で知った想い。「終わりがあるからこそ美しい」 (3ページ目)

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 それまでは、どこか引退を覚悟していたとはいえ、本当に自分がやめるのかなと思っていた時も過去にはあったんです。でも、その手紙を読ませてもらった時に、そういうことなんだなって。妻がこういう考え方だったから、自分はここまでやって来られたんだなって思ったところがあったんです。

 だから......僕自身に、引き際の、去り際の美学というものはなかったのかもしれません」

◆「中村憲剛の司令塔は妻。彼女と出会って、僕の人生はすべてが好転した」はこちら>>

 引退を発表する前のインタビューで、中村は、今の自分について、こう話してくれていた。

「楽しさしかないですね。自分が楽しめなきゃ、周りもきっと楽しめないですよね。やっぱり、ダメだなとか、無理だなとかではなく、いつか来る日のためにどれだけ自分がやれるのか。それが中村憲剛という男の仕事なんじゃないですかね」

 自分が自分に一番期待しているのかと、さらに尋ねると、中村はうなずいた。

「みんな欲張りだと思いますけど、たぶん自分が一番、中村憲剛に対して欲張りだと思いますよ。だから、あと少しなんだぞ、もっとやれよって思いますし、もっとやれるだろうとも思っています」

 自身にとって、クラブにとって3度目のリーグ優勝がかかっている。その先に続く天皇杯まで残り2カ月----。引退を決意した今、もう一度、同じ質問をぶつけてみた。

「もちろん。最後の1分、1秒まで。それで現役が終わったら、その次の自分にまた期待したいと思います。そこにまだ思いは馳せていないので、最長で残り2カ月、完全燃焼したいですね」

 サッカー選手としての中村憲剛は、私たちにどんな景色を見せてくれるのか。最後の1分、1秒まで、ともに楽しみたい。いや、楽しませてもらおう。

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