「練習が90分で終わるわけないだろ」。ヴェルディ監督が説く根性論 (3ページ目)

  • 会津泰成●文 text by Aizu Yasunari
  • 松岡健三郎●写真 photo by Matsuoka Kenzaburo

 今シーズン、永井の「根性論」で覚醒した選手がいる。今季、開幕戦では出場メンバーから外されながらも、リーグ戦再開後はここまで全試合で先発出場している井上潮音(しおん)だ。

 早くから注目され、十代の頃は常に世代別日本代表にも選ばれていた井上に対して、永井は「現役の最後に一緒にプレーしていて、彼のポテンシャルを見たことで、そろそろ自分が退いて『こういう選手が(未来のヴェルディを)引っ張っていくんだ』と感じた」と最大限の賛辞を贈る。一方で、昨シーズンは、自身の持つポテンシャルを存分に発揮できていないことに対して、不甲斐なくも感じていた。

「開幕初戦で控えメンバーにも選ばれなかったことは、相当に悔しかったはず。ただそこで腐らず、『なにくそ!』と思って、中断期間中、全体練習のできない中でもひたむきに努力を重ねて練習していた。リーグ戦の再開後は自分の力でレギュラーの座を勝ち取り、今ではチームに欠かせない存在にまでなった。これが本物のプロだと思う。自分で扉をこじ開けた。

 長友は大学時代、ベンチに入れずスタンドで太鼓を叩いて応援していた。本田はガンバのユースに上がれず、俊輔はマリノスユースに上がれなかった。でも、そこから這い上がり、日本代表や世界のトップで戦えるまでの選手になった。挫折をして這い上がるには、とてつもないパワーとエネルギーが必要。根性を持ち、挫折から這い上がってきた選手は、たくましさが違う」

 今シーズン開幕戦、永井が井上をメンバーから外した理由。それは、単に悔しさをバネに奮起してほしかっただけでなく、一度、客観的な視線から自分たちが目指すサッカーを俯瞰(ふかん)させ、理解するきっかけを作るためでもあった。

 2018シーズンまで指揮を執ったロティーナ監督(現セレッソ大阪監督)から「我々にとってメッシのような存在」と言わしめた男の輝きは、昨シーズンは影を潜めていた。井上は、永井の取り組む新しいサッカーに戸惑い、本来の力を出し切れずにいた。

 最近ポルトガルリーグに移籍した藤本寛也を始め、山本理仁、森田晃樹といった、ユース年代から指導を受ける選手たちが早くに順応し活躍の場を増やす中、それまでのスタイルからの脱却に苦しんでいた。

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