坪井慶介は引退してタレントの道を目指す。「大食いは巻に任せます」 (3ページ目)

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki



「代表は40試合出させてもらっていますけど、初出場するまでに1年くらいかかったし、(イビツァ・)オシムさんになってからもずっと呼ばれてたんですけど、試合に出られない状況が続いた。

 もちろん、国を背負っているわけで、試合に出ようが出まいが関係ない。使命感はありますし、自分のエゴなんて通用する場所でもない。どんな立場であっても、やらなければいけないんです。

 でも、一方でサッカー選手としてピッチに立たなければいけない。その葛藤が、本当に苦しい時期でしたね」

 精神的に苦しむなか、坪井はひとつの決断を下す。2008年2月、代表引退を宣言したのだ。自ら代表を離れるという選択は当時では珍しいことで、坪井の決断には賛否両論あった。

「もったいないな、と言われることはあったんですけど、直接的に批判的な言葉は耳にしていません。周囲の声よりも、あの時はとにかく精神的にきつかった。奥さんだけには言いましたよ。『ちょっとヤバいかもと。サッカー、もういいかなという気持ちになっちゃうかも』って。

 もちろん、代表は誰でも行ける場所ではないですし、呼ばれるだけでありがたいこと。でも、『試合に出られなくても、やるべきことはある』と言い聞かせている自分と、『ピッチに立たなければ意味がない』という自分がいて......。そのふたつの感情に挟まれて、とにかく苦しかったですね」

 代表引退の決断を、坪井は後悔していない。むしろいい選択をしたと、今でも思っている。

「後々に、勝手だったよねって言われたこともあります。そうなんです。勝手なんですよ。でも、勝手な決断をしないと、自分がサッカー選手として持たなかった。

 代表に行って、レッズでのパフォーマンスが悪くなることもありました。代表に行く意味がわからなくなりました。でも代表引退を決めてからは、思い悩むことは一切なくなったし、ここまで現役を続けられたのも、あの時にああいった決断を下したことが大きかったかもしれないですね」

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