坪井慶介は引退してタレントの道を目指す。「大食いは巻に任せます」 (2ページ目)

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki



「もちろん、そんなことは初めてでした。緊張もありましたし、大舞台での経験不足もあったと思います。それまでにいろんな経験を積んできたと思うんですけど、僕にとってあの大会は、その経験が役立たないほど異質なものでした」

 オーストラリア戦の前半は、何をしたのかまったく覚えていない。ハーフタイムに坪井は、ふと気がついた。「そういえば、水を飲んでないな」と。

 あの時のドイツは異常気象で、まさに炎天下での戦いだった。にもかかわらず、水分補給することを忘れてしまうほどまで、坪井は我を見失っていたのだ。

「後半に入った時点で、もう脱水状態だったんです。だから一気に4カ所もパーンと痙攣が来ちゃって。緊張するのはわかっていたし、それを想定して準備をしていたけど、それでも足りなかった。その意味でワールドカップは大きな大会でしたし、大きな悔いが残るものとなりました」

 そのワールドカップでは、キャリアで最も手ごわかったと記憶するFWにも出会った。第3戦で対戦したブラジル代表のロナウドである。

「あの時のロナウドは、もう全盛期じゃなかったですけど、それでもすごかったですね。対戦する前は、速いとか、シュートがうまいとか、どちらかというと感覚的なタイプだと思っていたんです。でも、実際に対峙してみると、自分がシュートを打つために、細かい予備動作や駆け引きを常に仕掛けてくる。

 だから、身体よりも頭がめちゃくちゃ疲れましたね。ちょっとでも僕との間が空くと、その一瞬の隙で受けてシュートを打たれてしまう。結果的にロナウドには2点獲られたんですけど、世界最高峰で点を獲り続けてきた選手はここまでレベルが高いんだってことを実感しました」

 日本代表でのキャップ数は40を数える。そのなかで喜びも、悔しさも、さまざまな感情を味わったはずだ。しかし、坪井は「日本代表での達成感はあまりない」と言う。むしろ、マイナスな感情としての記憶のほうが大きい。

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