高校サッカーの名門・イチフナが復活。選手が涙を流して語り合ったこと (2ページ目)

  • 平野貴也●取材・文 text by Hirano Takaya
  • photo by Hirano Takaya

「10番を背負っているけど、チームを降格させても、こいつには問題ないんだ。プロの道が決まったから、もう関係ないんだろ? そう思っているんだよな?」

 すると鈴木の感情が爆発した。

「そんなこと、誰が思っているんだ!」

 押し込めていた悔しさと情けなさが、堰を切ったように、あふれ出した。そして、鈴木は監督に向かって言った。

「だったら、FWをやらせろよ!」

 ポジション変更の直訴は、「FWなら(味方の動きを見てからではなく)自分から相手ボールを全部追える。パスを受けたければ、中盤に落ちてボールを触ればいい」と考えた鈴木の覚悟の表明だった。サイドでは、逆サイドに関わりにくい。ゲームメークも得点も守備も、全部率先してやってやる――。

 鈴木のFW転向後、チームは突如、勝ち始めた。エースの輝きがチームを引っ張り、チーム力が個人の力を引き出す好循環で、プレミアリーグは4連勝。選手権予選でも決勝で流経大柏高校とのライバル対決を制した。

 波多監督は「主将のMF町田雄亮(3年)や、石田、DF鷹啄トラビス(3年)は、周りに意見を言えるようになっていたけど、(鈴木)唯人は、周りが唯人に意見を言ってほしいと思っているのに言わないところがあったし、周りも唯人には言えない雰囲気があった。あの時、初めて、強く自己表現をしてきた。そういうところを引き出したかった。そんなことが一つのきっかけになったのかなとは、思います。今だから言えるけど、やっぱり、唯人は、もっとやれる選手だった」と大きな転機を回顧した。

 今季は、鈴木のほかに、快足サイドバックの畑大雅(3年、湘南ベルマーレに加入内定)というJリーグ入りする選手もいる。石田は、U-17日本代表候補。左サイドバックの植松建斗(3年)もスピード、パワー、キック精度の3拍子が揃った逸材で、個々の能力は高い。

 シーズン終盤に入り、ようやくチームとしてまとまり、実力を発揮できるようになった印象だ。中央では鈴木、サイドでは畑やドリブルが得意の左MF森英希(3年)が起点となり、ショートコンビネーション、カットイン、植松の攻撃参加、クロスと多彩な攻撃を繰り出す。

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