鳥栖、因縁の残留争いへ。「トーレス・フィーバー」とは何だったのか
J1第31節、サガン鳥栖が松本山雅を1-0で下した試合後だった。
「少しも気は抜けませんね」
鳥栖のエース、豊田陽平はそう言って気を引き締めていた。
鳥栖にとっては本拠地での大きな1勝だった。14位に順位をひとつ上げ(16位がプレーオフ、17、18位が自動降格)、残りは3試合、「あと1勝で残留は確定的」という状況にはなった。
しかし、途中出場で流れを変え、"クローザー"のような役割をした豊田は、表情を変えていない。
「喜ぶのは今日だけで十分ですよ。選手もみんなわかっていると思います」
そう言って、次戦に向けて準備していた。
どん底の状態からチームを立て直した金明輝監督(サガン鳥栖) 11月23日の第32節。鳥栖は同じく残留を争う名古屋グランパス(12位)に挑む。敵の指揮官は、かつて鳥栖を率いたこともあるイタリア人マッシモ・フィッカデンティ。昨シーズン、チームを低迷させて去った監督であり、負けられない相手だ。
スペイン人スーパースター、フェルナンド・トーレスはすでにチームを去った。大口スポンサーも消えた。鳥栖は極めて現実的な戦いを強いられている。この状況でもしJ2に降格したら――。
そもそも、なぜ鳥栖は昨シーズンに続いて残留争いに巻き込まれてしまったのか?
今シーズンの鳥栖は、スペイン人ルイス・カレーラスが監督に就任したスタートの時点で、苦戦必至だった。
「何をやりたいのか、まったくわからない」
選手にこれだけ見放された監督もいないだろう。すでにキャンプの時点で、完全に求心力を失っていた。
「相手のプレスを回避するために、バックラインはダイレクトパスでつなげ!」
そんな無理な注文を出し、選手は困惑するばかりだった。当然だが、相手を引きつけないでボールを回すだけでは、どこかでプレスをはめられてしまう。非論理的な指導によって、多くの選手のプレーレベルが低下。起用法もいびつになった。
「フェルナンド・トーレスの元チームメイト」
カレーラスは、その肩書だけで就任したようなものだった。スペインでも監督としては失敗続きだ。その迷走はほぼ必然だったのである。
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