札幌の37歳FWジェイはなぜ日本へ?
「以前よりいい人間になった」

  • 井川洋一●構成・文 text by Igawa Yoichi
  • 松岡健三郎●撮影 photo by Matsuoka Kenzaburo

 そして初年度からJ2で20ゴールを挙げて得点王となり、リーグ2位フィニッシュと昇格にも貢献。翌2016年シーズンはJ1で6位タイとなる14得点をマークした。日本の生活には少し戸惑いもあったけれど、ピッチ上ではすんなりと順応したわけだ。また同時にこの国の良さを知るようになっていく。

Jリーグでゴールを重ねているジェイ photo by SportsPressJP/AFLOJリーグでゴールを重ねているジェイ photo by SportsPressJP/AFLO「言うまでもなく、文化、敬意、安全、清潔。これらは日本が誇れるところだよ。想像できないかもしれないけど、イングランドでは毎日のように犯罪が起こり、とくに近年は危険になっている。イタリアは日本に似ているところがあるね。料理がおいしくて、家族を大切にして、四季があって──イングランドは夏以外ほぼ曇っていてグレーだ。

 欲を言えば、もう少し英語を話す人がいたらいいなとは思うけど、それはそれとして、日本はとてもラブリーな国だね」

 ジェイが生を受けたロンドン郊外の地域は物騒なところで、彼は恵まれない環境で育ったという。英国の首都ロンドン──その響きや印象は華やかでクールだが、実際にはかなり危険な地域もあるらしい。

「僕が育ったのは、暴力やドラッグが当たり前のようにあるエリアだった。殺人で刑務所に入った同級生もいたよ。そうしたトラブルを避けるためにも、フットボールが僕の聖域だったんだ」と彼は言う。

 だからこそ、ジェイは現在の自分が身を置く「安全でクオリティーの高い」生活に感謝している。とくに小さな赤ん坊を抱える今は。

「もちろん、ロンドンにも文化的な生活はある。ただ僕はそういうものにはあまり縁がなかった。だから今こうして、家族で何も不自由なく、穏やかな生活を送れていることに感謝している。普段は地元の人と同じように生活しているんだ。小さな赤ん坊がいる今は、公園の滑り台とかブランコとかで一緒に遊ぶことが多いね。

 当然、時々声をかけられたり、サインや写真を頼まれたりもするけど、それは自分の仕事の一部だと思っているし、日本の人々は礼節をわきまえているので、まったく問題はない。この国で僕も敬意や礼儀を身につけた。以前より、確実にいい人間になったと思う」

 ジェイはそう言って、またにっこりと微笑んだ。
(つづく)
ジェイ
Jay Bothroyd/1982年5月7日生まれ、イギリス・ロンドン出身。北海道コンサドーレ札幌所属のFW。アーセナルの育成組織で育ち、プロ入り後はイングランドのクラブを中心にプレー。イングランド代表歴1キャップを持つ。2015年より日本へ。コベントリー→ペルージャ→(イタリア)→ブラックバーン→チャールトン→ウォルバーハンプトン→ストーク・シティ→カーディフ・シティ→QPR→シェフィールド・ウェンズデー→ムアントン・ユナイテッド(タイ)→ジュビロ磐田(日本)

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