「右の専門家」鹿島・遠藤康が、多機能型プレーヤーとして開眼した (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by KYODO

 1トップ下、あるいは1トップ脇。いすれにせよ真ん中でプレーをする遠藤を過去に見た記憶はない。ところが、多少無理がある窮余の一策かと思いきや、前半15分、さっそくその成果が現れる。見る側の認識を新たにさせるシーンに遭遇することになった。

 右サイドで、こちらも久々に先発に復帰した右サイドバック(SB)伊東幸敏が、清水の左SH西澤健太のドリブルを止めると、素早くセルジーニョにフィードした。その時、前線で反応したのは上田ではなく遠藤だった。オフサイドラインをかいくぐるように動きだし、セルジーニョのパスを受けると、自慢の左足にボールをセット。インフロントでがら空きのゴールにふわりとしたボールを蹴り込んだ。新境地を開拓したかのようなゴールだった。

 何かが衰えたという感じはしない。力量的にはまだ十分足りている。出場時間を減らしていた原因は、右SHしかできない点のみだと言える。

 通常、そこでスタメンを張るのはレアンドロだ。しかし常時ではない。左でプレーする場合もある。セルジーニョが右SHに入る場合もあるが、彼は真ん中でもプレーする。土居聖真、バルセロナに移籍した安部裕葵は、右も左も真ん中もこなす。ひとつのポジションしかやらないのは遠藤と、今シーズンに清水から移籍してきた白崎凌兵ぐらいのものだ。

 言うならば遠藤は、メンバー交代の幅が広がりにくい、監督にとって使い勝手が悪い選手だった。その出場機会が減少する理由は、右SHしかできないその非多機能性に原因があった。

 とはいえ、遠藤は鹿島一筋できた選手だ。右SHしかできないその非多機能性は、鹿島で培われたものだ。使い勝手の悪い選手だと言われれば、自分をそのように育てたのはクラブではないかと、反論したくもなるはずだ。この日の1トップ下(脇)での出場が、は、監督のアイデアなのだとすれば、遠藤は歴代の監督に対して、「もう少し早く試してほしかった」という気持ちもあるのではないか。

 それはともかく、鹿島が4点目を奪ったのは後半のロスタイムだった。三竿が自軍深くからレアンドロにフィードすると、遠藤は左サイドに開いて走った。そしてその鼻先にパスが出ると、カウンターのチャンスは一気に拡大した。

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