現役21年目の我那覇和樹。変わらぬ川崎への想い「感謝しかない」 (2ページ目)

  • 木村元彦●文&写真 text&photo by Kimura Yukihiko

 この事件は、風邪の点滴治療を正当に受けただけの選手が誤報と規程の間違った運用で一方的にドーピングにされ、あとは組織のメンツのためにCASに行くまで裁定の見直しすらなく、裁定後に謝罪もなかったという、いわばひとりの選手に向けた組織的なパワハラであった。組織はガバナンスを効かそうとせず、どこの大学の先輩の誰がこう言ったから従っておこうというそんな次元で選手の名誉を奪おうとした。

 当時のJリーグのトップの人たちはもう皆いなくなり、制度的に問題のあったドーピングを裁く機関も改善されている。2016年に偶然使用したクラブ推奨のサプリメントが原因で陽性反応が出てしまったサンフレッチェ広島の千葉和彦が、拙速な報道被害や誤った裁きを受けずに、しっかりと検証され、処分も本人の落ち度ではないということで最も軽いけん責処分に落ち着いたのは、紛れもなくこの我那覇の件からJリーグが学んだからである(選手を預かる多くの代理人たちからも我那覇への感謝の言葉が聞こえてきた)。また、本件の責任を取らされるかたちでフロンターレを解雇された後藤秀隆チームドクターも現在は復職を果たしている。望むべくは、Jリーグは今からでも川崎に制裁金の1000万円を返還すべきである。

 再びカマタマーレの練習場。我那覇は今、何を思うのか。愚問だった。カマタマーレ讃岐を1年でJ2に昇格させることしか考えていない。前向きな言葉しか出て来ない。

「契約してくれた讃岐のために恩返しをして、シーズン後にはサポーターと一緒に喜びたいですね。高松での生活も6年目ですから、慣れて来ました。住みやすいですよ。ベテランということで上村(健一)監督からも調整は信頼して任せてもらっていますから、余計にそれに応えないといけないと思っています」上村監督もまた我那覇については「やりやすい環境で活躍してもらいたい」と尊重している。

 本人に慢心はない。FC琉球時代の経験も踏まえて言う。

「降格しても実績のある選手がほとんど残ってくれました。でも、それですぐに上位に行けるかというほどJ3は甘くないと思います。移動も厳しいし、謙虚にやらないと。若い選手の多いカテゴリーだから、走り負けないようにしないといけない。だからこそ、ブレることなくシーズンを乗り切ることですね」

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