スペインの名伯楽の戦術講義。「50cmいる場所が違うだけで差が出る」 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

「プロの監督という仕事は、勝った負けたで評価される。そこからは、どうしても逃れられない。そして、いくら監督がいいトレーニングをしていたとしても、負けるときは負ける。その逆も起こりえる。でも、どう転んでも立ち止まってはならない。割り切りながらも意欲的に学び続け、チームを改善し続けることだ」

 エチャリはそう言って、目の力を強めた。若い頃、地方のユースチームを全国リーグまで昇格させている。それはひとつの成功だったが、終わりはない仕事だったという。

「結局のところ、監督は選手に、自分が思うようにプレーしてほしいと思っている。そして、そうなったときは喜びがある。しかし、監督はそこで慢心してはいけない。自分のやり方を常に疑うこと。周りとのコミュニケーションを欠かさないこと。これが大切だ。他にベターなやり方があるのではないか、もっと改善の余地があるのではないかと疑い、仕事に向き合い続けるのだ」

 今や名将のひとりに数えられるウナイ・エメリ(現アーセナル)や、監督業をスタートさせたばかりのシャビ・アロンソ(レアル・マドリードU-14監督)からも、アドバイスを求められる。しかし、エチャリは彼ら自身が答えを持っているのを承知している。ディスカッションするなかで答えの精度を高め、自身も新しいことを知る。

 エチャリがサンセ(レアル・ソシエダのBチーム)を率いていた時代、選手の中にエメリがいた。現役時代のエメリは左利きで天才肌のアタッカーだった。エチャリが攻撃戦術をトレーニングで仕込み、試合で「あとはエメリがラストパスで送るだけ」という場面が訪れた。ところが、エメリは自らゴールを狙って失敗。エチャリは頭を抱えたが、試合後は論理的に話し合ったという。

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