ジーコは意気込む。鹿島のために「現場に立ち、構築、修正していく」 (4ページ目)

  • 寺野典子●文 text by Terano Noriko
  • 井坂英樹●写真 photo by Isaka Hideki

 北関東に位置する小さな鹿嶋は、Jリーグ強豪クラブのホームタウンとして、全国区の知名度を得ることになった。その第一歩となったのはブラジルの英雄であり、世界のトップスターだったジーコが訪れたことだ。16年ぶりにテクニカル・ディレクターとして古巣の現場に復帰したジーコは、アントラーズの未来をどう描いているのだろうか。(取材は8月22日)

ときに身振り手振りを交えて話していたジーコときに身振り手振りを交えて話していたジーコ

――この小さな町に、プロクラブを根付かせるのは、容易なことではなかったはず。創設当時大切にしていたこととはなんでしょうか?

「プロクラブを作ったとしても、町の人が興味を持ってくれなければ、何の意味もないと考えました。なので、選手たちには、練習前後にサポーターにサインをするとか、写真を一緒に撮るとか、サポーターへのサービスをきちんと行ってほしいと要求しました。町中でも、『スタジアムや練習場へ足を運んでください』と、鹿島アントラーズを宣伝してほしいとも言いました。そして、当時の地元の方たちが、鹿島アントラーズは町の誇りだ、というところにたどり着いたのは、とても幸せなことでした。私自身にとってもそうですし、クラブを作った人たちにとって、地元の方々の熱がもっとも重要な力になりました。そういう後押しがチームに勢いをもたらし、勝つことができたのです。そして、現在にたどり着きました」

――当時からクラブの哲学となった『スピリット・オブ・ジーコ』の「献身・誠実・尊重」という3つの言葉のなかでもっとも重要なものは?

「私は『誠実』だと思っています。どこの世界でも、努力する『献身』であるというのは、誰もがやることです。そして、『尊重』というのも普通に存在しています。しかし、いろいろな場所へ行き、感じたのは、成功の可否を分けるのは『誠実』だということです。誠実さに欠ける人間がひとりいることで、尊重や献身が崩れ、うまくいかなかった経験があります。チームメイト、スタッフ、サポーターに対して誠実に向き合うことは非常に重要なことです。表と内とで違う顔を見せていると、やがて大きな問題に発展してしまいます。

 たとえば、身体に痛みがある、怪我をしていたのに、それを隠して試合に出る選手がいました。理由はいろいろとあるでしょう。試合に出ることで得られる報酬に目がくらんだかもしれません。とにかく、怪我のことは誰にも告げず、試合に出場し、怪我を悪化させることになってしまった。腓骨にヒビが入っていたのですが、完全に骨折し、手術が必要となり、長期間離脱することになってしまったのです。試合に出たいがために、怪我を隠し、監督であった私をはじめ、メディカルスタッフなどたくさんの人をだました。その不誠実な行動が、チームの状況すら変えてしまったのです」

――鹿島アントラーズは「勝利へのこだわり」が強いと言われています。改めて「勝利」はクラブに何をもたらすのでしょうか?

「スポーツ、競技をやる以上、その大会に参加するだけではなく、優勝というものが、個人であっても団体であっても当然求められます。競技者自身がある一定の状況に達すれば『優勝したい』と思うのも当然でしょう。

 鹿島アントラーズの選手たちは、このクラブの一員になった時点で、勝つことに対する執念を事前に準備しなくてはならない。もしくは、入った瞬間に、チームメイトをはじめ、自分を取り囲む状況から、勝利に対する意識、こだわりを持たなくてはならないと学ぶのです。

 ましてやアントラーズのサポーター、ファンは、鹿嶋の地元にだけいるわけではありません。これは世界でも非常に稀な例だと思うのですが、鹿島アントラーズを応援してくれる人は日本全国にいます。だから、日本のどこへ行っても『アントラーズの勝っている姿を見たい』という彼らの期待、願いに応える義務が我々にはあるのです」

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