ジーコは意気込む。鹿島のために「現場に立ち、構築、修正していく」 (2ページ目)

  • 寺野典子●文 text by Terano Noriko
  • 井坂英樹●写真 photo by Isaka Hideki

 前半終了間際の44分、右サイドからのクロスボールの競り合いからボールがこぼれて、相手にシュートを許したが、スンテと内田がゴールライン上でブロック。そのとき、相手選手に激しく気持ちを露呈したプレーでスンテがイエローカードを受ける。

「スンテがイエローカードをもらったあの瞬間、やっとチームにスイッチが入った」と内田が振り返る。見方によっては1発退場の可能性もある行為だった。

「やってはいけないことだとわかっていたけれど、チームに喝を入れたかった」とスンテ。「勝てて良かったです」と試合後に話した。取材エリアでは、いつも穏やかな表情を浮かべながら、笑いを誘うことも多いスンテなのだが、この日の試合、ACL準決勝ファーストレグの水原三星戦直後、記者の質問に応じるスンテの表情に笑みは一切なく、表情も口調も厳しかった。

「最初もったいない失点が続いていて、こういう試合はそういう細かいミスから勝負が分かれるというのは選手たちにも強調しました。もちろん、相手が韓国のチームで負けたくないという気持ちもありましたし、球際のところで、負けて入るのはよくないと思っていた」

 チームメイトが戦えていないと強く感じたのだろう。苛立ちがあっても当然だ。どんなに試合時間が残っていても、失った点は戻ってはこないのだから。

「もっとしっかり戦わないとダメだ」

 スンテの声はハーフタイムのロッカールームにも響いた。

 後半はほぼ一方的に水原陣で試合が展開され、鹿島アントラーズは攻めに攻めた。しかし、そこには手詰まり感も漂っていた。

 56分安部裕葵に代えて、安西幸樹を投入し、72分にはボランチの永木亮太に代わり、土居聖真がピッチへ送り出される。土居はボランチの選手ではない。それでも、そこでゲームの流れは変わる。「聖真が入って良い位置でボールを受けられるようになったことで流れが変わったのが一番のポイント」と、83分に遠藤康に関わり、右アウトサイドで投入された西大伍が話す。そして、1分後の84分。彼のファーストタッチがセルジーニョの同点弾を生む。

 チョン・スンヒョンからの縦パスを受けると、ターンして、前を向いた。

「最初はセル(ジーニョ)のことは見えていなかった。なので、どうにでも動かせるようなところにトラップしてボールを置いた」

 置いたところで、セルジーニョのポジションを確認。絶妙なパスを送り、同点弾はあっけなく決まる。西の判断、そして彼の高い技術とコンディションの良さが光るプレーだった。

 チョン・スンヒョンは言う。「西大伍だから、西大伍だからこそ、まわりが驚くプレーを信じて、パスを出しました」

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