鹿島復帰は喜びだけではなかったジーコ。「非常にがっかりしている」 (2ページ目)

  • 寺野典子●文 text by Terano Noriko
  • 井坂英樹●写真 photo by Isaka Hideki

「昔のチームのレベルと比べたら、今の11人がめちゃめちゃレベルが高いかって言ったら、そういうわけでもない。それでも僕自身の過去に跳ね返されてきた。それを次のラウンドに進めるというのは、素晴らしいこと。今の鹿島には若い選手がいるし、俺とか(小笠原)満男さんとか、ソガさん(曽ヶ端準)とか、昔からやっている人もいるし、(大岩)剛さんも含めて、ハネさん(羽田コーチ)とか、悔しい経験をしたスタッフもいます。そういう人たちの想いがあるから。準決勝は韓国のチーム、うちにはふたりの選手、ひとりの通訳と3人の韓国人がいるから絶対に勝たせてあげたい」と内田篤人は、チームの、そしてチームメイトや仲間たちの「想い」について口にした。

 これもまたひとつの自己犠牲精神なのだろう。

 試合後、ロッカールームから出てきた大岩剛監督の手には、試合で使用した用具があった。ACLのアウェイ戦ではスタッフも総力戦で荷物を運ぶ。鈴木満強化部長が台車を押す姿を見たこともある。立場に関係なく、手の空いた人間が助け合う。こんなところにも『スピリット・オブ・ジーコ』の「献身・誠実・尊重」が感じられた。

 小笠原満男はその日も取材対応はしなかった。それでも「壁をひとつ越えましたか?」と声をかけると、人差し指と中指を立てた。Vサインにも見えるし、あと2ステージあるというふうにも見える。どちらかはわからないが、その表情は柔らかかった。

 クラブ史上初のベスト4進出を飾った9月18日マカオの夜、鹿島アントラーズは温かな空気に包まれていた。

2 / 6

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る