「イニエスタ神戸」を夏の日本で最大限に活かすため、必要な戦術は? (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki 原壮史●写真 photo by Hara Masashi

 一方で現時点での神戸は、ボールをつなぐ意思はあるものの、「ハイプレスでショートカウンターを狙う」という色のほうが濃い。この日は、横浜FMのほうがイニエスタの入ったチームを想像することはたやすかった。なぜなら、「積極的にボールを受け、持ち運ぶ」という能動的な回路ができていたからだ。

 神戸がイニエスタの才能を生かし切るには、戦略的に「自分たちのポゼッションをどう高めるか」へ転換する必要がある。例えば、バックラインからのフィードは強さ、角度を含めて今以上の技量が求められるし、サイドは起点となって幅を作り、FWはボールを収め、深みを作り、押し上げを促すことが求められる。能動的な戦い方の確立だ。

 "ボールありき"の戦い方においてこそ、イニエスタは神戸の選手たちにカタルシスを与えるだろう。「周りの選手のプレーを輝かせる」という点に、彼の極意はある。味方との呼吸をつかむのがうまく、最高のタイミング、精度でパスを出すことによって、その選手は面目躍如となる。右サイドアタッカーとして強い個性を感じさせる18歳のMF郷家友太などは、大きく伸びるはずだ。

 一方、イニエスタが適応に苦しむ可能性もあるだろう。Jリーグでプレーした経験のあるスペイン人選手の多くはそのサッカーに対して「せわしない、運動量が求められる」という印象を抱いている。おそらく、イニエスタもその違和感に行き当たるはずだ。

 スペインではポジションを守る感覚があって、むやみに定位置を留守にしない。Jリーグでは走ることが奨励されるあまり、不用意に動きすぎて裏をとられる、という本末転倒の現象が起こっている。

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