被災地にグラウンドをつくった
小笠原満男が、子どもたちに語ったこと (3ページ目)
小笠原は子どもたちに優しく問いかけて答えを引き出していた 小笠原はたとえ同じ答えであったとしても、何人にも回答させると、そのたびに子どもたちを褒めた。そして、次の質問を続けた。
「そうだね、高いところに走っていくんだよね。うん、みんな正しいよ。じゃあ次は、そこまでどうやって走っていく?」
今度は手こそ上がるものの、遠慮がちに小さな声で答えている子どもたちに、小笠原はまたハッパをかけた。
「ここでちゃんと大きい声を出せなければ、明日の試合中も(声は)出せないぞ!」
また魔法の言葉である。ハッとした子どもたちは、次々にハキハキとした大きな声で、質問に答えていく。
「そう、後ろを振り返らずに思いっきり走る。そのときは、今みたいな大きい声で、周りの人にも教えてあげるといいね」
なかなかうまい言葉が出てこない子どもには、「間違えることは恥ずかしいことじゃないぞ。プレーでも、ミスを恐れるよりチャレンジしなさいってコーチに言われてるでしょう」と、何かにつけてサッカーと関連させながら、子どもたちにわかりやすく防災意識を植えつけていった。
実は、小笠原は東北人魂の活動のほかに、オフの時期は依頼があれば全国各地に講演に出向き、防災意識の大切さを伝えている。こちらが把握しているスケジュールだけでも、毎年、年末年始は気が遠くなるような移動を繰り返している。しかし本人は、「移動中は寝てればいいから」と意に介すことはない。
現役のプロサッカー選手である今だからこそ、自分にできる最大限の力で、いつ起こるかわからない災害への意識を広められたら、と考えているのだろう。
だから今回、大船渡に新設されたグラウンドの全景写真を最初に見たときも、小笠原が真っ先に口にしたのは、津波が来た際の避難経路についてだった。
「この階段を上った先に小学校があるんだね。この高さなら大丈夫だね」
意識の高さに、頭が下がる思いだった。
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