森﨑浩司とのかけがえのない思い出。1年前に聞いた「引退」の二文字 (2ページ目)

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 そのシーンを見ながら、ふっと1年前のことを思い出していた。あれは、広島がガンバ大阪とのチャンピオンシップ決勝・第2戦を控えた前日だった。広島がアウェーで劇的な逆転勝利を収めた第1戦を取材した筆者は、そのまま広島入りした。当たり前だが、決戦を翌日に控えた練習会場は緊張感に包まれ、緊迫した空気が漂っていた。

 ただ、当時の浩司はケガでメンバー入りすることすら叶わず、ひとり別メニューで調整を続けていた。他の選手たちが練習を終え、静まり返ったスタジアムで浩司を待っていると、出てきたところで声をかけられた。

「かなり待たせちゃいましたね。あの、いつものところに付き合ってもらっていいですか?」

 うなずくと、彼のクルマに乗り込んだ。聞かなくても行き先はわかっていた。筆者が広島に取材へ行ったときには、近くの温泉施設に行き、リフレッシュしながら話すのが、彼のお気に入りだったからだ。だから、その日もお湯に浸かって汗を流すと、併設する食堂で食事をしながら、翌日の試合展開について話が弾んだ。そして、ひと通り話し終えた浩司は、意を決したようにこちらに告げたのだ。

「たぶん、僕は来シーズンが最後になると思います」

 その真意を説明するかのように、浩司はさらに言葉を続けた。

「正直、しんどいんですよね。肉体的にも、精神的にも......試合に出るためのトップコンディションを維持していくのが......」

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